まず、戦略を変えようとしないこと。差別化戦略の企業は、コストの引き下げに関してはコスト・リーダーシップ戦略の企業にかなわない。そこで、差別化戦略の企業は、自社の強みを活かし、それをいっそう強化することに力を入れたほうがうまくいく。

 次に、ある程度までのコスト削減を素早く進めることも重要だ。需要の先行きが不透明な状況では、企業はできるだけ早くコストを削減しなくてはならない。長期にわたる巻き返しのための予算を捻出するために、その必要があるのだ。

 短期で経済が回復することを当て込んでコスト削減を先延ばしにすれば、そのギャンブルが裏目に出た場合に、その会社は難しい状況に置かれる。ただし、コストを削減することで、差別化された商品やサービスを送り出す能力が損なわれないように気をつけなくてはならない。

 最後に、お手軽な問題解決策などないと理解することも重要だ。単に価格を引き下げるだけでは、問題は解決しない。自社が最も安い価格で商品を販売しているのでない限り、同様の商品やサービスをもっと安く売る企業が必ず現れる。

 そこで、差別化戦略の企業を取り仕切る人たちは、みずからの起業家的情熱を再発掘する必要がある。自社の強みに目を向けよう。コスト・リーダーシップ戦略の企業が提供する商品やサービス以上に、自社の商品やサービスを価値あるものにしてきた要素は、危機の中でも失われたわけではない。その点を顧客に知ってもらえばよいのだ。

 幸い、大半の企業は2008年の大不況を生き延びた。ひょっとすると、読者の中には、そうした企業を率いていた経験の持ち主もいるかもしれない。

 その経験がある人は、現在のような大規模な危機を生き抜くために、どのような懸命な努力が必要かを知っているはずだ。隣の芝を実際以上の青いと思い込んで、ほかの会社の戦略を模倣するのは、賢い選択とは言えない。


HBR.org原文:Avoid Making This Strategic Mistake in a Recession, July 13, 2020.


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