各国政府は近年、デバイスやサービスに含まれるデータにアクセスできる力を強化しようとしてきた。
たとえば、メッセンジャーアプリのワッツアップ(WhatsApp)は「エンド・トゥ・エンドの暗号化機能により、あなたの会話のセキュリティを守ります」と謳っている。「あなたのメッセージと最新のステータスは、あなたとあなたが選んだ人たちにしかわかりません」というのだ。
しかし米国、英国、そしてオーストラリアの政府は複数回にわたり(最近では2019年10月に)、暗号化されたメッセージを入手できるバックドアを設けるよう、ワッツアップの親会社であるフェイスブックに圧力をかけてきた。これまでのところ、フェイスブックとワッツアップは、こうした要求を拒絶してきた。
このようなバックドアが認められ、一般的になれば、インターネットに接続されたデバイスは事実上すべてがスパイ用の装置となり、あらゆる国で禁止されることになる。
「国家安全保障上の脅威」の乱用は、あっという間に拡大し、貿易戦争をエスカレートさせ、国際貿易体制を破壊しかねない。それは1930年代に、米国のスムート・ホーリー関税法が引き起こした状況と似ている。同法の目的は、関税障壁を強化することで輸入を抑制し、農業をはじめ大恐慌で打撃を受けた産業を守ることだった。
しかし当然ながら、ほぼすべての貿易相手国が報復措置を講じて、関税障壁を強化した。そのため、米国の輸入は66%、輸出は61%も減り、大恐慌の影響は一段と悪化した。一般に、貿易戦争に勝者がいることはめったにない。それはおそらく、サイバー貿易戦争も同じだろう。
HBR.org原文:The TikTok Ban Should Worry Every Company, August 28, 2020.
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