●場当たり的な対応をやめる

 企業は不確実性をけっしてゼロにはできないが、不確実性に直面している顧客に対し、秩序立った規則的な方法で働きかけることはできる。基準となる枠組みをつくり、実験による証明と実地での検証を経た一連の指針をその中で示し、今後の事態や危機に役立ててもらうのだ。

 やがてその枠組みは、不確実な状況下における有意義で透明なコミュニケーションとはどのようなものかについて、ユーザーや顧客の間に合理的な期待を形成する。そして人々のリスク・リテラシーの向上に寄与し、リスクに対する世間の不安につけ込む非道な者たちによる被害を減らすことにつながるだろう。

 基準となる枠組みは、業界をまたがる企業連合によって策定されるのが望ましい。組織の間に広く普及すれば、すべての企業に均等な機会が与えられ、社内に必要な機能を持たない小規模な企業も水準を高めることになる。

 ●成果指標を変え、結果を測定する

 不確実な事象の伝達を迫られた企業は、否定的な報道をかわすことを第一の目的としてはならない。短期的に最大の目標とすべきは、顧客が不確実な要素について理解し、リスクへの対処に動けるよう、必要な情報を提供することだ。長期的には、世間の信頼度を高め、可能な部分でリスクを減らしていくことが求められる。

 伝える側は、これら短期・長期両方の目標に対するコミュニケーションの効果を厳密に測定する指標を設け、自社の対応が奏功していることを証明しなければならない。

 ●最初からリスクコミュニケーションを考慮した設計にする

 市場投入後の性能に関する不確実性を伝える必要性が、すべての製品に最初から織り込まれる――これが何を意味するか、考えてみよう。つまり「リスクコミュニケーションの仕様化」だ。

 リスクコミュニケーションが組織内に広がり製品開発にまで浸透すれば、不確実要素の伝達をめぐるユーザーエクスペリエンスとユーザーインターフェースのデザインに革新が起きるはずだ。そして認知心理学と意思決定科学の能力が、製品チームに取り入れられるだろう。

 また、十分な情報に基づいて選択する能力を顧客が強化できるよう、企業が有意義な形で支援しているか否かを告げるフィードバックループが、設計の過程で製品に直接組み込まれるだろう。

 人は生来、確実性と完結を求める傾向がある。しかし、両方ともに不足している状況でも、信頼の欠如は不可避ではなく、当然の現実でもない。組織が集団的に、既存の科学を秩序立った形で活用すれば、より巧みなリスクコミュニケーションを図れるものと筆者らは前向きに考えている。


HBR.org原文:The Art of Communicating Risk, September 24, 2020.


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