では、呼吸法の何がそれほど有効なのだろうか。ストレスや不安、怒りなどの強い感情を、言葉で鎮めることは非常に難しい。極度のストレス下にある同僚に「落ち着いて」と声をかけるのが、いかに意味のないことかを考えればわかるだろう。
人は、非常に多くのストレスがある時、前頭前皮質(合理的思考を司る脳の部分)の機能が低下するため、論理的思考がコントロールを取り戻すのに役立つことはほとんどない。そのため、理路整然と考えたり、部下に対してEIを働かせたりすることが難しくなる。しかし、呼吸法を使えば、ある程度心をコントロールできるようになる。
研究によると、感情と呼吸形態は相互に関連しているため、呼吸の仕方を変えることで、気分を変えられる。
たとえば、人が喜びを感じている時には、規則正しく、深く、ゆっくりと呼吸する。これに対して、不安や怒りを感じている時の呼吸は、不規則で、短く、速く、浅くなる。特定の感情に呼応したパターンで呼吸することによって、実際にその感情を覚え始めるのだ。
なぜ、そうなるのだろうか。
呼吸のリズムを変えると、リラクゼーションのシグナルが送られ、心拍数が減少し、迷走神経が刺激される。迷走神経は、脳幹から腹部まで伸びる、体の「休息と消化」活動を担う副交感神経の一部である(これと対照になるのが、「闘争・逃走」反応の多くを司る交感神経である)。副交感神経が刺激されると、気持ちが落ち着き始め、気分がよくなり、合理的に考える能力が戻ってくる。
呼吸で気持ちが落ち着く感覚を理解するために、吸気(息を吸う)と呼気(息を吐く)の比率を変えてみよう。これは、呼吸を使ってストレスを軽減する一般的方法の一つである。
人は息を吸うと心拍数が上昇し、息を吐くと心拍数は低下する。そこで、4つ数えながら息を吸い、8つ数えながら息を吐く。これを数分間続けるだけで神経が落ち着き始める。自分が動揺していると感じたら、ゆっくり息を吐けばよいことを覚えておこう。
このような短いエクササイズは一時的な効果があるが、日常に習慣として取り入れるスカイ呼吸瞑想法などの包括的な呼吸法は、神経系を鍛え、長期的にレジリエンスを高める効果がある。
こうした簡単な方法によって、職場に限らずあらゆる場面で、高いウェルビーイングを維持し、ストレスレベルを下げることができる。
HBR.org原文:Research: Why Breathing Is So Effective at Reducing Stress, September 29, 2020.
■こちらの記事もおすすめします
危機の渦中で疲労や不安、パニックに対処する方法
マインドフルネスにはチームで取り組むべきである
小さなストレスから身をまもる簡単エクササイズ
DHBR2020年8月号「不安を和らげる4つのステップ」