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ジェンダーに関する社会の認識は大きく変化し、男性か女性かの二者択一を迫られることが疑問視されるようになった。しかし、ビジネスの現場はその変化から取り残されている。性自認や性別表現が原因で解雇されたり、ハラスメントを受けたりする被害が後を絶たない。本稿では、社員をジェンダーの固定観念に縛りつけず、インクルーシブな職場環境を実現する4つの方法を紹介する。


 いま、ジェンダーに関する社会の考え方が大きく変わりつつある。

 トランスジェンダーの人たちが雑誌の表紙を飾ったり、セレブがファッションのジェンダー規範に異議を唱えたり、みずからを男性でも女性でもないと考える人たちが社会の主流の一員として扱われるようになったり、この数十年間の文化的トレンドを背景に、ジェンダーに関する新しい考え方が広まってきている。

 この傾向がとりわけ顕著なのは、ミレニアル世代とZ世代だ。これらの世代は、ほかの世代に比べて、性別を特定しないジェンダー中立的な人称代名詞で呼ばれることを望む人や、服装の面で性自認が流動的だったり、特定の性自認を持たなかったりする人が、知人の中にいる場合が多い。

 しかし職場は、こうした人口動態と文化の変容に取り残されている。全米トランスジェンダー平等センターの2015年版「全米トランスジェンダー調査」によれば、雇われて働いた経験を持つ回答者の6人に1人は、性自認や性別表現が原因で解雇されたり、昇進を阻まれたり、ハラスメントを受けたり、攻撃を受けたりした経験があるという。

 アリソン・フォガーティ博士と筆者がスタンフォード大学で行った調査では、数十人の広い意味でのトランスジェンダーの人たちが経験した差別について分析した。対象者の中には、トランスジェンダーの男性、トランスジェンダーの女性、ジェンダーフルイド(性自認が流動的な人)、ノンバイナリー(性自認が男性にも女性にも分類できない人)、シスジェンダー(出生時に割り当てられた性別と性自認が一致する人)であってもジェンダーに関する固定観念を受け入れない男女、そのほか社会のジェンダー規範に異議を唱えている多くの人たちが含まれる。

 この研究を通して明らかになったのは、「トランスジェンダーの問題」にそれなりの理解がある組織ですら、ジェンダー・ノンコンフォーミング(ジェンダーに関する固定観念によって規定されたくない)な社員を受け入れる体制が十分でないという現実だった。

 進歩的な組織でも、トランスジェンダーの社員を排除しないインクルーシブな制度や慣行をつくろうとする際に、時代遅れで自由を縛るようなジェンダー規範をうっかり固定してしまう場合がある。

 この問題を解決するために必要なのは、社内の制度を増やすことではなく、制度の質を高めることだ。一人ひとりの主体性を確保し、男性にも女性にも分類されたくない人たちが活動しやすい状況をつくり出し、あらゆる性自認と性別表現の人たちがさまざまなリソースを利用し、充実した職業生活を送れるようにするためには、どうすればよいのか。

 本稿で紹介する職場での個人の体験談など、私たちの調査結果により、企業のリーダーが実践できる4つの方法が見えてきた。