今後、最悪の展開になるシナリオとは
問題は、上述したシナリオ通りになる保証がないことだ。さまざまな面で、物事が悪い方向に進む可能性は否定できない。実際、再び経済が崩壊するのではないかという不安の声がしばしば聞かれる。
きわめて悪いシナリオは、「W字型」の景気後退という言葉で言い表されることが多い。これは、2度目の景気悪化が待っているというシナリオである。つまり、2020年の第2四半期に景気が大幅に悪化して、第3四半期に力強い景気回復が実現したあと、第4四半期(もしくは2021年第1四半期)に2度目の景気後退が始まるというのだ。
このシナリオが現実になる確率は、どのくらいあるのか。「W字型」の景気後退が起きるのは、新型コロナウイルスの感染が再び急拡大し、強力なロックダウンが行われて、上述の第2のグループの業種が激しい打撃を受ける場合と考えてよいだろう。
政府が経済活動と感染抑制を両立させるうえでは、医療機関の対応能力が最大の制約要因になりそうだ。欧州では、再度のロックダウンが行われている。米国でも同様の措置が実施される可能性はあるが、政治状況を考えると、米国では選択的なロックダウンにとどまる可能性のほうが高い。この場合、成長を維持する余地は残る。
差し当たりプラス成長が続くとしても、リスクがなくなるわけではない。財政出動による景気刺激策が実行されなければ、成長への道が閉ざされかねない。下手をすれば、マイナス成長に転落する恐れもある。
また、もっと広い意味での政治的失敗もリスク要因の中に含まれる。米大統領選の選挙結果をめぐる混乱もその一つだ。
企業にとっての意味
危機の時には、悲観的になり、不安に苛まれがちだ。特に危機の原因が未知のものだったり、システム全体に大きなダメージが及ぶリスクがあったりする場合は、そうなりやすい。しかし、悲観的になり、守りの姿勢に入ることには、それ自体にリスクがある。
見落としてはならないことがある。一般的に、景気後退期にも、あらゆる業種の企業の14%が売上げと利益を伸ばしている。
そのような企業は、その危機のおかげで幸運に恵まれたというだけではない。その危機の性格により、たまたまその業種で需要が伸びたと見るべきではないのだ。目の前のことだけでなく将来を見通し、その危機に特有の事情をうまく味方につけて、新しい領域で他社とは異なる成長を遂げる。
マクロな環境全体を注視することはもちろん重要だが、リーダーは自社の業種や市場における状況を理解し、活用することの重要性も頭に入れておかなくてはならない。適切な投資を行い、景気回復期と危機後の日々に繁栄するために、それが不可欠なのだ。
HBR.org原文:Why the Global Economy Is Recovering Faster Than Expected, November 03, 2020.