コロナ不況が予想ほど
深刻でなかった理由
ビジネスリーダーたちは多くの場合、このような動向をリアルタイムで経験してきた。そうしたリーダーたちは、今後の状況を的確に見通すために、景気が予想ほど悪化しなかった理由を知りたいと思っている。
景気回復の道筋を予測することは、(景気悪化を予測するほど難しくはないにせよ)いまもきわめて難しい。それでも景気後退の類型、それぞれのパターンを生み出す要因と、それによって生じる影響、そして今後の景気回復の道筋に影響を及ぼす、今回の危機に固有の要因を検討することの価値は大きい。
景気後退は、3つの側面を持っている。この3側面を一体のものとして考えることにより、景気回復の力学が見えてくる。コロナ不況は、この枠組みを通して見ると際立った特徴を持ち、それに着目することにより、これまで起きてきたことをかなり説明できる。
●景気後退の性格
景気後退をもたらした要因は何か。それは投資バブルの崩壊なのか、金融危機なのか、政策の失敗なのか、それとも外的ショックなのか。
コロナ不況は経済に甚大なダメージを及ぼしたが、外的ショックが原因だったという点で、過去2回の2001年と2008~09年の景気後退――それぞれ投資バブルの崩壊と金融危機が原因だった――よりは好ましい点がある。過剰投資が蓄積しないことが理由だ。
過剰投資を解消する必要があると、景気回復の始まりが遅れて、回復の足も引っ張られる。外的ショックによる景気後退について回る最大のリスクは、それがシステムそのものに関わる危機に変容することだ(これまで一般的に恐れられてきたのは、金融危機の引き金が引かれることだった)。
●政策上の対応
どのような政策上の対応がなされるかによって、景気回復の足取りは大きく左右される。この点でも、コロナ不況には明るい材料がある。米国では特に、財政出動を素早く実行することの有効性が見えてきている。
いまだによく見られる誤解は、新型コロナウイルスの発症者数と死亡者数がその国の経済的パフォーマンスを決めるというものだ。実際には、発症者数および死亡者数と景気の相関関係は弱い。政府が強力な経済政策を実行すれば、感染抑制策がうまくいかないことによる経済的ダメージを、ある程度和らげることができるからだ。
実際、米国の感染抑制策はほかの豊かな国々(たとえば欧州諸国)に比べて、成功しているとは言い難いが、米国経済の実質成長率はほかの国々を上回っている。これは、米国がほかの国々よりも大幅に思い切った政策的対応に踏み切ったためだろう。
しかし、政府が政策的対応を行う最大の目的は、ウイルスとは別の問題の「感染」――家計と企業の破産が続出し、金融システムが不安定化する事態――が拡大するのを防ぐことだ。それが現実になった場合は、経済に構造的ダメージが生じる。
●構造的ダメージ
景気後退がどのようなタイプのものになるかを決めるカギを握る要素は、構造的ダメージの有無だ。
景気後退により設備投資が激減し、失業者が増えれば、その国の経済の生産能力は落ち込む。これは、2008年に米国で起きたことだ。この時は、金融危機により資本ストックの成長が打撃を被り、危機以前の水準を回復することがひときわ難しくなった。
コロナ不況は、この点で比較的好ましい景気後退と言える。過去の景気拡大に伴う過剰投資や過剰融資が蓄積していないからだ。加えて、2008年とは異なり、迅速な政策的対応が行われたことにより、破産が抑制され、資本財受注の力強い「V字型」回復が実現した。これまでのところ、コロナ不況は、大きな構造的ダメージを生み出さずに済んでいるように見える。
私たちがコロナ不況について最悪の想定をしたのは、大不況後の景気回復の足取りが遅く、景気低迷が長く続いたことが、まだ記憶に新しかったからだろう。この時に景気回復が遅れた理由は、上述の3要素に照らして考えるとわかりやすい。
大不況では、まず投資バブルの崩壊が起き、それが金融危機に発展し、その結果として金融セクターと家計のバランスシートが大きく傷ついた。しかも、政策的対応が大幅に遅れて、大きなダメージが生じてしまった。暗黙のうちにこの時の経験を前提に考えていたとすれば、コロナ不況の影響を実際より深刻に見積もったことも不思議でない。