荒川 剛(あらかわ・たけし)
パナソニック ビジネスソリューション本部 CRE事業推進部 SST推進総括

パナソニックの企業不動産(CRE)を活用したタウン開発・運営を通じ、社会課題解決型のソリューション開発やサービス創出に従事。暮らしから発想し、産官学・住民共創でサスティナブルに進化するFujisawa SSTのプロジェクト推進責任者兼Fujisawa SST協議会事務局長を務める。またタウンマネジメントを行うFujisawa SSTマネジメント代表取締役社長を兼務。

5つのアプローチで実現する持続可能な街

――Fujisawa SSTの現在の状況を教えてください。

荒川 構想の検討に着手したのは2010年です。JR東海道本線の藤沢駅からバスで15分に位置する南北300m×東西600m(19Ha)の工場跡地を利用し、持続可能な住宅を中心とした複合的な都市開発を行っています。561戸が完成済みで、すでに2000人以上の方が居住しています。さらに約400戸の集合住宅も計画中です。

 街全体の完成は2022年度以降となりますが、住宅の他に、健康・福祉・教育施設を1つに集めた「Wellness SQUARE」、商業施設「湘南T-SITE」、ヤマト運輸が運営する次世代物流センター「Next Delivery SQUARE」、住民の自治会施設「コミッティセンター」、そして街のランドマークであり、街の運営を行うFujisawa SSTマネジメントのオフィスがある「Fujisawa SST SQUARE」で構成されます。

――スマートシティとして、どのような街づくりを目指しているのでしょうか。

荒川 スマートシティというとエネルギーへの取り組みが中心になりがちですが、Fujisawa SSTでは街づくりの初期段階からエネルギーだけでなく、セキュリティ、モビリティ、コミュニティ、ウェルネスの5つのサービスをワンストップで提供することを目指しています。しかし、当然ですがパナソニックだけの力で実現することはできません。パナソニック ホームズ、アクセンチュア、三井不動産グループ、三井物産、東京ガス、電通、日本設計などのさまざまな分野の企業、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス、藤沢市が参加した官民連携で街づくりを推進する「Fujisawa SST協議会」を設立し、タウン設計、サービス設計を進めてきました。そして、同協議会参画企業からパナソニックをはじめとする9社が株主となり、サスティナブルでスマートなサービスを提供する役割として、Fujisawa SSTマネジメントを設立しました。現在は私が代表として所属しています。

 さらに、自治体(藤沢市)、大学(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)と連携を取りながら、街のコミュニティの醸成・活性化、各種実証実験やマーケティング活動なども行っていきます。住民参加で進化し続ける、いわばサスティナブル・スマートライフの実現が究極的な目標です。

――5つのサービス分野について、詳しく教えてください。

荒川 エネルギー分野では、中央集権的なエネルギー供給に依存しない、自立共生型のエネルギーマネジメントを目指しています。戸建て住宅には全て太陽電池や蓄電池が設置され、家庭用燃料電池エネファームは75%の住戸に、空気の熱を利用して効率よくお湯を沸かすエコキュートも25%の住戸に装備されています。世界最大規模(※2012年当時パナソニック調べ)の個別分散型のエネルギー・マネジメント・システムを実現しているといえるでしょう。
 また、街全体のエネルギー需給データを収集していて、その日の電気やガスの使用状況、太陽電池による再生可能エネルギーの供給状況、CO2排出量などが可視化できるようになっています。

 セキュリティ分野では、4重のセキュリティにより、安心なくらしを実現しています。まず街の出入り口を限定し、カメラで見守りを行っています。さらに全住戸にはホームセキュリティを標準装備し、日中はマネジメント会社の社員が、夜間はALSOKが巡回し、安全を確保しています。

 モビリティ分野では、EV(電気自動車)の普及とカーシェアリングの活用を想定したインフラづくりを行っています。各住戸にEV用の充電コンセントを標準装備し、またEVのシェアリングサービスを導入。その他、レンタカーデリバリーサービスや電動アシスト自転車のサイクルシェアも導入しています。あえて車を持たない生活を希望する方向けに、駐車場を設けず、庭を広く使える住戸も用意しています。

 コミュニティ分野のサービスでは、住民と企業、住民と行政をつないで、街の運営に必要なさまざまな情報を提供しています。いろんな場所にいろんな形で点在している情報を一元的に可視化することによって、コミュニティがスムーズに運営できるよう支援しているのです。

 最後にウェルネス分野では、特別養護老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、各種クリニックや薬局、学習塾などが集まった複合型のWellness SQUAREを設けています。サービス付き高齢者向け住宅では、クラウドサービスに対応するエアコンと非接触型センサーを組み合わせた見守りサービスや、室温コントロールなどのサービスも提供しています。

――そうしたサービスは、どのようなプロセスで設計されたのでしょうか。

荒川 サービス設計の前に、その土台となる街づくりの方針を藤沢市と共同で策定しました。藤沢市の政策やこの地域の課題解決につながる街づくりを目指し、都市交通機能の強化や広域情勢、防災や減災といった視点も盛り込みました。

 そして、その方針を実現するために、スマートシティとして街全体のコンセプトを策定しました。例えば、藤沢市は2022年度までにCO2排出量の40%削減(1990年度比)という目標値を掲げていましたが、同様に環境や安全等に関する目標を具体的に設定していったのです。さらにその目標を達成するための具体的なガイドラインを考えていく中で、必要なサービスを検討していきました。

藤井 今のお話からも、やはりスマートシティの考え方は次のステップに進んでいることを確信しました。自治体とも街づくり方針検討の段階で強く連携し、住民を起点に街の在り方を地域と共に考えることが、これからのスマートシティを構築する上で欠かせない鍵となっているのですね。