データだけでは解決できない街の問題
――住民の課題を掘り起こす上で重要なことは何でしょうか。
荒川 データの活用は言うまでもありませんが、それを取得するための効率化も欠かせません。これまでは住民の声を集めるにも全世帯にアンケート用紙を配布するなどしていましたが、タウンポータルを整備したことで、データで取得することが可能になりました。こうした効率化によって新しいサービスの開発に時間を使うことができるようになります。
先ほどご説明した通り、Fujisawa SSTは各住戸のエネルギー使用状況がデータとして把握できるようになっていますが、これもその取得のために多大なコストをかけていては意味がありません。データ取得のコストが抑えられているからこそ、設備の保守点検や機器の入れ替えの提案といった新しい事業やサービスにつなげられるのです。
藤井 アクセンチュアが参画している会津若松市におけるスマートシティの取り組みでは「現場への近さ」も重要だと感じました。ご存じの通り、会津は雪深い地域なので冬には除雪車を出すのですが、これは企業へ業務委託をしています。会津若松のスマートシティの取り組みでは、除雪車にGPSを付け、住民が除雪車の走行状況を自身の住所を中心として地図上で確認できるサービスを展開しています。一方で、それは自治体側から見れば、除雪車の走行区域と住民からの苦情件数を合わせ見ることで、除雪作業のパフォーマンス分析ができるシステムにもなります。
データによってパフォーマンスが悪いとされた走行区域を、現場の人が詳しく分析してみると、道路幅が狭過ぎるとか、凸凹が激しいとか、違法駐車が多いといったことが原因だったということがありました。課題を解決するためにデータは重要ですが、それをどういう視点で分析するかも重要です。
会津若松市では、幸いにもデータ分析のスキルが高い人材が市役所の各課にいます。現場に非常に近いところにデータ分析できる人がいるおかげで、結果的に新しいソリューションや行政の改善につながっています。これはビジネスにおいても、共通する部分があると思います。
荒川 私たちメーカーは、エンドユーザーとの間に流通が入るので、実際の声が届きにくい位置にいます。もっと直接ユーザーの声を吸い上げることができれば、自分たちの商品開発にフィードバックできますし、住民の声を聴きながら素早い開発につなげることもできます。これがインキュベーションの支援にもつながるでしょう。
「モノを売る」から「コトを売る」にシフトすべし、といわれて久しいですが、なかなか実践の場を持てていないのが現実です。企業の街づくりへの参画は、ユーザーの声を直接拾える場でもあるのです。
データ活用においてもただ数字を取るのでは意味をなしません。そのデータからどのような意味を見いだし、活用していくか。そこに価値を見いだす取り組みを、協議会やパートナー企業も含めて行っていくべきでしょう(
藤井 データから見いだした課題を、スマートシティの仕組みとして取り込んでいくことが大切だと考えます。