藤井 篤之(ふじい・しげゆき)
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター

主に公的サービス領域(官公庁・自治体・大学・公益団体など)のクライアントへの調査・コンサルティング業務に従事。会津若松スマートシティにおけるヘルスケア領域の支援、戦略立案に従事したほか、民間企業向けにもスマートシティ、ヘルスケア関連プロジェクトに関する豊富な経験・実績を有する。

住民がサービス開発に関わる意味とは

――住民が起点となったスマートシティの街づくりにとって、最も重要なことは何でしょうか。

荒川 「解決すべき街の課題とは何か」を明確にすることは欠かせません。そうした課題を洗い出すには、当然のことながら住民の視点が必要なのです。住んでいる人一人一人が感じている困りごとを明らかにし、それを共有して、解決する。これが住民起点の街づくりの基本だと思います。

 産官学と住民が協力して、イノベーションを生み出していく仕組みづくりも重要です。Fujisawa SSTでは、2014年から「まち親」プロジェクトと名付けた産官学と住民の共創型街づくりを行っています。街が発展するにつれ、課題も顕著になってきます。例えば、街の人口が増えれば、対面やリアルなコミュニケーションには限界が訪れます。街全体で街づくりに関わっていく意識を高める対策として、サイバー上でのコミュニケーションが必要になりました。そこでアクセンチュアさんと共に住民同士や企業をつなぐための新しいプラットフォームとして、タウンポータルを作りました。

藤井 タウンポータルの構築に当たっては、会津若松市で発展させ、内閣府事業を通じてレファレンスアーキテクチャとして標準化を進めた都市OSを中心に、さまざまなサービスのアプリケーションを載せ、データを連携させています。街全体のエネルギーデータや防犯カメラの情報、また各種サービスの利用状況や住民同士のコミュニケーション、自然言語系のデータなど、全てを集約する街の基幹となるプラットフォームになるように注力しました。

 タウンポータルは自宅のインターネットテレビやスマートフォン、PCなどから利用できるようにしています。また、レコメンド機能を強化して、一人一人の属性や要望に合わせた情報提供を行えるようにしています。

――「まち親」プロジェクトから新たに生まれたサービスには、どのようなものがありますか。

荒川 ヤマト運輸が運営する荷物配送の一元化サービスがその一つです。各宅配業者がそれぞれ配達するのではなく、業者を問わず、全ての荷物を1つの施設に集約し、各戸に配送するサービスです。

 受け取る側の住民はその日の荷物を一括で受け取れるメリットがあります。顔見知りの配達員が配達してくれる安心感も得られます。一方、配送側も担当区域の住民の在宅時間を把握しやすいため、再配達のコストを削減できるというメリットがあります。

 最近では快眠をサポートするサービスの実証を行っています。過去2年間にわたって、住民の方にモニターになってもらい、生活や健康状態など睡眠に関係するデータを収集してきました。今後はそのデータを基に、一人一人に最適な睡眠環境を実現するサービスや製品を開発・提供していく予定です。

藤井 住民起点の話は、まさにこのマネジメントサイクルが鍵だと思います。スマートシティの持続的な発展のためには、「住民に参画してもらい実際の体験をデザインしていく」「組織的に回していく」、そして「ビジネスにする」という3点が重要だと考えています。

 この3つを実現するには、産官学と住民が連携して住民起点の課題を拾い上げること。Fujisawa SSTの「まち親」プロジェクトは、その代表例といえるでしょう。そして、スマートシティに参画する企業としては、そこで明確になった課題の中に事業機会を見いだしていくことが重要です。