
新型コロナウイルスの感染拡大による影響で、日本では郊外への人口流出が進んでいるものの、世界的には都市への人口集中が加速している。国連の予測では、2050年には都市化率は70%に迫る勢いとなっており、エネルギー不足や交通渋滞など生活環境の悪化が懸念されている。こうした課題の広がりが、スマートシティへの取り組みに拍車を掛ける形になっているが、その実装を進める中で新たな可能性が見えてきた。データの提供・利活用により、住民起点の新たな生活サービスの充実である。行政・コミュニティへの参加意識の変革など、社会の仕組みそのものを変える手段として、スマートシティは次のステージを迎えている。
スマートシティは開発者主体から住民起点へ
――国内外のスマートシティの現況についてお聞かせください。
藤井 スマートシティの取り組みは開発・立ち上げの段階から、実装という段階に移っています。国内では、今日詳しくご紹介する神奈川県藤沢市の「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」(以下、「Fujisawa SST」)をはじめ、アクセンチュアが中心的に参画している福島県会津若松市の「スマートシティ」、そして2021年以降、大阪のうめきた2期、福岡の九大箱崎跡地の「FUKUOKA Smart EAST」など、多くのスマートシティプロジェクトが始動しています。
海外に目を移せば、ニューヨークやシカゴ、マンチェスター、アムステルダム、コペンハーゲン、ドバイほか、中国やシンガポール、韓国など、世界の主要都市でスマートシティが生まれ、実際の生活が営まれ始めています。
こうした取り組みで見えてきたのは、開発者が主体となって進める街づくりには限界があるということです。もちろんビジネスモデルを検討するには、新しい土地を新規開発するグリーンフィールドなのか、既存街区をリニューアルするブラウンフィールドなのか、あるいは立地が都市部なのか地方なのかといった分類からスタートする、開発者側の目線が必要です。
しかし、さまざまな仕組みを実装してその街づくりの効果を十分に発揮するためには、上記の分類にとらわれずそこに住む人の視点で課題を捉え直しサービスを考えることが重要になってきます。Fujisawa SSTはそれが非常にうまく機能しているように思えます。
荒川 Fujisawa SSTもグリーンフィールド型の開発ですので、
これらスマートシティの開発は、パナソニックの社内的にはCRE(企業不動産)ソリューション事業として位置付けられています。工場が必要なくなったからといって、その跡地を単純に売却するのではなく、長い間お世話になった工場の近隣地域の皆さんと、これからも何らかの形でつながりを持っていたいという思いからスタートしています。
もちろんメーカーとして、さまざまな事業につながる、不動産価値が上がるという「効果」は期待しています。しかし、そのスタート地点は縁のある地域の課題を解決し、住みやすい街づくりに貢献したいという思いがきっかけでした。