住民と企業の思惑をどのように一致させるか

――ここまでのお話を伺うと、これからのスマートシティの発展には住民起点に加えて住民の合意が重要なポイントになりそうですね。

荒川 Fujisawa SSTでは、住民の皆さんに入居時にデータ提供についての同意を頂く形を取っています。もちろん、利用目的が変わる場合はあらためて同意を取る必要がありますが、全体としてスムーズで適切な運用体制が担保できていると思います。

 実は、6年間にわたる住宅分譲の中で、新規に街の戸建て住宅を購入される動機は、少しずつ変化してきています。初期は、環境意識が高く、エネマネや省エネといった取り組みや設備について関心が高い方が多く購入されています。そして、住宅販売の2期、3期になると、先に住まわれている方がお子さんを街の公園で遊ばせている様子を見て、街の“安心・安全”を高く評価して購入された方が多いです。その後は、自分たちと同世代が多く住む街で、一緒にコミュニティや街の活動に参加したいということで購入される方が増え、最近では、街の中で企業が行う実証にも協力しようという方もいらっしゃいます。そういった意味でも、街のハードの進化だけでなく、街に住む方の意識も変化してきており、こういったことはFujisawa SSTの特長だと思っています。

 街が企業の実験場にならないように一定の条件設定が必要ですが、企業の力を街づくりに有効に活用するという視点は重要です。自分たちが関わったことで住民サービスが向上すると、そうした活動に参画するモチベーションも上がるという住民の方の声をよく耳にします。サービスの目的や成果を住民の方にも可能な限りシェアするなど、適切な情報のフィードバックが不可欠だと思います。

藤井 このデジタル時代においてプロシューマーという言葉があるように、自ら創り出すことに対しての意識や関心が高まっている中で、企業と住民が一緒にサービスを創る場としてスマートシティが進化していくというのは、とても夢がありますね。

荒川 住民が進化しているから、それに引っ張られて、そのニーズに応えるべく街自体が進化してきているのかもしれません。その結果、住民だけでなく、企業にとってもスマートシティの事業価値が高まっていくことでしょう。

藤井 会津若松市のスマートシティは「街が良くなるから市民がデータ提供に協力する。データ提供が街づくりへの参画、行政への参画になっている」とメディアで紹介されました。これからのスマートシティは街の変化にとどまらず、社会システムに変革をもたらす存在として持続的な発展を遂げていくでしょう。

荒川 パナソニックとしては、このFujisawa SSTを起点にして、新しい発信ができると考えています。ここでやってきたことを、他の地域にも広げていく。フラッグシップモデルとなり得ると感じています。

 自社の製品によるソリューションはもとより、街づくりや住民サービスの開発・運営ノウハウなども大きな財産です。パートナー企業との協業が新たなソリューションを生み出す可能性も大きいと思います。

 インキュベーションの機能と、直接的なビジネスの場と。Fujisawa SSTの街づくりへの参画が、副次的に別の地域でのビジネスにもつながっていく。つまりスマートシティの発展が、サスティナブルなビジネスの拡大にもつながっているのです。

参考リンク:
アクセンチュア・イノベーションセンター福島
Fujisawa SST公式ホームページ(街のコンセプト紹介・視察ツアー申込等)

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