「ノー」という言葉を避ける

 子どもが道路に飛び出さないようにするには、いずれ「ノー」と言わなければならない時が来る。だが、たとえ権力のある人が相手であっても、不同意の態度を示すことを恐れてはいけない。世界大戦のような騒ぎを起こさなくても、説得力のある会話によって境界線を引くことはできる。

 重要なのは、直接「ノー」と言わないこと。これは人間関係を維持しつつ、境界線を設定する時に有効なスキルだ。

・「私たちのチームは、あなたの重要プロジェクトに関わることができて、とても嬉しく思っています。ただ、スタート時期は半年後でなければ無理です」
・「申し訳ありませんが、金曜日の締め切りには間に合いそうにありません。対処法を話し合いましょう」

 間接的に「ノー」と言う時は、代替案を示すことで、人間関係を維持し、ネガティブな印象を緩和できる。これは職場でも、それ以外の場所でも効果がある。

・「範囲を縮小すれば、金曜日までにお渡しできます。現在の範囲のままでしたら、1週間後でないとお届けできません」
・「この仕事を引き受けることができて、とても嬉しいです。いますぐ着手してほしいとお考えだと思いますが、家族と2週間の休暇を取る予定です。休暇後に着手することをご希望ですか。それとも、着手してから休暇をとる形にしましょうか」
・「この夏、新しい自転車にそこまで高いお金は払えない。でも、あなたがいくらかお金を稼ぐ方法と、古い自転車を売る方法について、喜んで知恵を貸そう。そのうえでなら、私たちもいくらかお金を出していい」

 代替案を示すと、相手に交渉の主導権を握っている感覚を与えることができる。全面的に「ノー」と言うのではなく、それでも彼らと仕事をしたいという強力なメッセージを送ることになるからだ。

「ノー」と言う時は
理由を大量に並べない

 説明しすぎは、境界線について合意を形成する助けにならない。情報が多すぎると、話し合うことが多くなりすぎて、あなたにとって不利になる。

・「今度の土曜日は、孫の1歳の誕生日パーティがあるので、仕事には出られません」とは言わないこと。祖母という立場に特別理解がある上司でない限り、「でも、誕生日は来年もあるだろう」とか「夕方6時には帰れる。それからパーティをすればいいじゃないか」と言われてしまうだろう。すると、あなたの勝ち目は乏しくなる。そうではなく、「申し訳ありません。その日は家族の重要な集まりがあって、予定を変更できないのです」と言おう。そして、この説明を変えてはいけない。
・「ベビーシッターがいないので、パーティには行けません」とは言わないこと。それを聞いた主催者が、子どもも連れてきていいと言うかもしれない。すると、「でも、それではだめなのです。なぜなら……」と説明を続けなくてはならなくなる。そうではなく、「お伺いしたいのですが、その日は無理なのです」と言って、その会話を終わらせる。