(1)立ち止まって、「普通のことではない」と認識する

 一歩下がって、自分に問いかけてみよう。現在抱えているストレスやバランスの悪さ、不満の原因は何か。それらの状況は、仕事のパフォーマンスとエンゲージメントに、どのような影響を与えているか。個人の生活には、どのような影響を与えているか。あなたは何を優先しているか。何を犠牲にしているか。何が失われているか。

 精神的にいったん立ち止まり、これらの要因を認識したうえで、初めてこうした問題に取り組むことができる。

 たとえば、法律事務所のシニアアソシエイトであるマヤ[編注]は、数年間にわたって仕事に没頭していたが、気がつくとどん底まで落ち込んでいた。そうなってみてようやく、自分の過重労働が家族に強いてきた負担と、みずからの心身の健康を犠牲にしていたことを認識した。

「とにかく長時間働いていました(中略)恐ろしいほど長い時間でした(中略)そう気づいたことが、私にとって重要だったのだと思います。もうこんなことはしたくない、ばかげている。そう思ったのです。それ以来、私は本当の意味で、一歩引くことができるようになりました」

 法律事務所のパートナーであるケイトも同じように、息子が生まれた後、大きな気持ちの変化を経験した。彼女は「働け、働け、働け」という精神を叩き込まれていたが、現在では、この考え方と母親としての「いまの自分」が衝突することを理解している。彼女は人生を変える出来事を機に、一歩引いて、自分の現状と優先順位のミスマッチを認識し、長時間労働の習慣を普通のことだと考えないところから始めた。

 もちろん、筆者らが話を聞いた専門職の人々は、誰もが多忙な生活を送っている。ふだんは、立ち止まって振り返る時間やエネルギーがないと話す人も多く、インタビューのおかげで自分を見つめ直す機会ができたと、感謝さえされた。

 ただし、こうした理解の引き金になるのは、子どもの誕生や愛する人の死など人生の重大な出来事であることが多いものの、私たちはいつでも立ち止まり、自分の優先順位について再考することができる。

 長時間労働をいとわない人も、たしかに存在する。しかし、時間をかけてこれらの問いについて熟考し、意図的であってもそうでなくても、自分が払ってきた代償を理解することは、これまでとは違う働き方や生き方を見つけようしているすべての人に役立つだろう。