会社の制度

 自発的にリモートワークを導入する際は、会社の制度をアップデートし、さまざまな場所で仕事をする働き手のニーズに応えられるものにしなくてはならない。既存の制度を見直すにあたっては、以下の問いに答える必要がある。

 ●自社で最適なリモートワークの割合はどの程度か

 選択肢としては、リモート中心、ハイブリッド型(週に2、3日だけオフィスに出勤する)、オフィス中心の3パターンがありうる。自社に適した制度を決定するうえでは、以下の戦略的要素を考慮に入れる必要がある。

・業務の性格:リモートワークに最も適しているのは、協働やすり合わせの必要性が小さく、個人単位で行う仕事だ。協働の要素が大きい仕事もリモートワークでうまく行える可能性はあるが、そのためにはより多くの労力が必要となる

 言うまでもなく、リモートワークができない仕事もあるが、そうした仕事の種類は一般に思われているよりも少ないのかもしれない。企業はリモートワークの領域を押し広げ続けている。

 ロボット工学や拡張現実(AR)などのテクノロジーを駆使して、製造業の現場でリモートでの機械整備を行ったり、医療現場でリモート検査やリモート診断を導入したりする動きも見られる。

・働き手の経験:新入社員や昇進したばかりの人物は、しばらくの間はオフィスに出勤して働くことの利点が大きい。そのほうが人間関係を築きやすいし、暗黙知はオフィスで働くほうが吸収しやすい。もしリモートワーク中心に移行するのであれば、リアルタイムでバーチャル・オリエンテーションを開催したり、合宿研修を行ったりするとよいだろう。

・働き手の選好:人によって性格も違うし、リモートワークを好む度合いも違う。そこで、一人ひとりの選択も考慮に入れるべきだ。また、どのような働き方をしたいかという話し合いは、最初に1回行うだけでなく、新しい働き方が定着した段階であらためて行うことが望ましい

・温室効果ガスと不動産コスト:環境へのダメージを抑えることやビジネスを成長させやすくすることを考えれば、オフィスへの出勤を減らして、温室効果ガス排出量と不動産コストを抑えるほうがよいだろう。

 ●WFA(ワーク・フロム・エニウェア)を検討する用意はあるか

 WFAとは、業務の生産性を落とさないことを条件に、社員が自分の好きな場所で働くことを認める形態だ(ただし、たいていは米国内やEU内といった一定の制約がある)。

 WFAに関する初期の研究によれば、勤務場所を柔軟に選べるようにした場合、働き手は、それまでより大きな人生の目標を追求するようになり、「居住地への満足感」が高まる。その結果、在宅勤務(WFH)よりも生産性が向上する可能性もあるという。

 WFAを導入することの戦略上のメリットとしては、潜在的に採用可能な人材の層が厚くなることに加えて、引く手あまたの人材の獲得競争で有利な立場に立てることを挙げられる。

 ただし、企業のリーダーは、WFAで社員が別々の時間に働くことで生まれる恩恵を最大化する一方で、スケジュールの決定や業務のすり合わせなどが難しくなることに対処しなくてはならない。また、自宅で仕事をする人の数が増えたり、職種が拡大したりすれば、リモートワーカーに影響を及ぼす州ごとの税制も変わっていくだろう。

 ●強力な企業文化をどのように維持するか

 リモート型もしくはハイブリッド型の働き方への移行が進めば、企業文化を強化したり、洗練させたりする必要が出てくるかもしれない。社員がばらばらの場所で働く場合、重要な規範や価値観、前提を共有することが難しくなる

 バーチャル環境で企業文化を維持する手立てとしては、共通の体験を育むための社員集会や昼食会、価値観が浸透しているかどうかをチェックするための状況確認、重要な活動についてのコミュニケーションの徹底などが有効だ。

 ●自社の人事制度のどの部分をアップデートする必要があるか

 リモート型もしくはハイブリッド型の働き方への移行を目指す企業は、さまざまな人事制度や慣行を変更しなくてはならない場合がある。

・採用戦略で重んじるスキルや能力を変える必要があるかもしれない。たとえば、自分でモチベーションを維持する能力、主体的に行動する能力、円滑なバーチャル・コミュニケーションを行う能力などが重要になるだろう。

・勤務形態や居住地による給料の調整など、給料決定のあり方も考え直すべきだ。ある調査によると、働き手の約44%は、恒久的にリモート勤務ができるのであれば、給料が10%減ってもよいと考えている。フェイスブックやツイッターのように、本社ではなく、物価の安い地域での在宅勤務を選択する社員の給料を調整する方針を、すでに明らかにしている企業もある。

・福利厚生制度も、これまでのように職場で利用するタイプのものばかりでなく、リモート環境でも利用できるものを増やすべきかもしれない。たとえば、筆者らの顧客の一人が働く会社では、スポーツジムの利用権に代わり、オンライン・フィットネスの「ペロトン」の利用権を提供し始めているという。

 ●どのような新しいタイプの研修が必要か

 リモートワークにおいては、テクノロジーや企業方針に関する研修と同等もしくはそれ以上に対人関係面の研修が重要だと、企業は気づき始めている。最近の調査によると、企業幹部の64%は、マネジャー向けにバーチャルなチームのマネジメントについての研修を行う意向だという。

 一方、筆者らの調査によると、コロナ前、社員にバーチャルワークに関する研修を行っていた企業は30%に留まっていた。しかも、その研修はソフトウェアの使い方と会社の制度を学ばせることにほぼ終始していた。

 筆者らは企業に対して、リモートワークに有効だとわかっている「対人」スキルの研修を行うよう勧めている。具体的には、職場ルールの確立、信頼関係の構築、好ましいバーチャル・コミュニケーションのあり方の指導、バーチャルな職場への社交の要素の導入などを目指すとよいだろう。

 たとえば、いわゆる「バースト性の高い」コミュニケーション(アイデアの提案とそれに対する返答が素早く活発に行われる)は、生産性を向上させ、リモートチームの成果を高める効果があると実証されている。そこで、そのようなコミュニケーションの方法をトレーニングすることも効果的かもしれない。

 また、ハイブリッド型の働き方を導入するうえでは、リモート勤務のメンバーとオフィス勤務のメンバーの間の公平性を確保するために、ハイブリッド型チームのマネジメントに関する研修を行うことも有益だ。