マネジメント慣行

 適切な制度を設けることに加えて、リモート型もしくはハイブリッド型の働き方に適したマネジメント慣行を取り入れることも重要だ。リモートワークを長期的に導入する際、マネジャーは以下の点を検討する必要があるだろう。

 ●健全なリモートワーク環境をどうやって築くか

 リモート型もしくはハイブリッド型のチームを長期にわたってマネジメントするうえで特に重要な要素の一つは、リモートで働きやすい組織風土を築くことだ。ここで言う組織風土とは、組織文化とは異なり、社員が職場環境に対して抱いている認識を意味する。

 この目的を達成するためには、リーダーの後押しの下、リモート環境での同僚同士の関わり方についての宣言を発してもよいだろう。コロナ禍が始まってほどなく、IBMの社員たちは「在宅勤務に関する誓い」を作成し、リモート環境でどのようにコミュニケーションを取り、同僚と接するべきかというルールをまとめた。

 最終的に、この現場レベルの取り組みがCEOのお墨つきを得たことにより、リモートワークで守るべきルールに関して強力なメッセージが全社に向けて発信された。このような声明や方針をリーダー主導で打ち出せば、コロナ後のリモートワーク環境に好ましい影響を及ぼせるだろう

 ●社員が仕事と家庭を両立するのをどうやって助けるか

 リーダーは、リモート型もしくはハイブリッド型の職場環境で社員が仕事と家庭を両立させる手助けができる。たとえば、完璧なバランスを取ることを目指す必要はなく、自分に最適なリズムを見出せばよいのだと、手本を示すことも有効かもしれない。

 どのように仕事と家庭を両立すればよいかについて、社員はマネジャーを手本にする境界マネジメントに関する研究によれば、リーダーはいくつかの面で社員が「線引き」を行う支援ができる。たとえば、以下のようなことが可能だろう。

・物理的/空間的な線引き(例:専用の仕事場を設ける)
・時間の線引き(例:仕事に最適な時間帯を見つける)
・対人関係の線引き(例:同僚に連絡を取ってよい時間帯を知る)
・認知面の線引き(例:仕事の統合と分割のどちらを好むか)
・行動上の線引き(例通勤がなくなっても仕事と私生活の切り替えをしやすいように、散歩をしたり、エクササイズ用のバイクを漕いだりする)

 ●心理的安全をどうやってつくり出すか

 研究によると、高い成果を上げているチームには心理的安全がある。つまり、罰せられたり、仲間外れにされたりすることを心配せずに、社員が自由に発言し、支援を求め、アイデアを提案できるのだ。

 心理的安全は、リモートワークでも極めて重要だ。そして、マネジャーの取り組みによってそれを強化することができる。具体的には、マネジャーは以下のような行動を取ればよい。

・問いを発する(部下の近況を尋ねるなど)
・弱い部分を見せる(自分の失敗談、たとえば重要なビデオ会議でうっかりして、自分の顔がネコになる加工アプリを使ってしまった経験などを披露する)
・全員の参加を促す(「どう思いますか」「意見を聞かせてください」「何か見落としていることはありませんか」などと尋ねる)
・リスクを伴う行動を奨励する(社員が新しいアイデアを試したり、新しいプロセスを提案したりすることを認める)

 ●従業員エンゲージメントをどうやって高めるか

 研究によれば、思いやりや気遣いを示すなど、質の高いやり取りを少し行うだけでも、ストレスを和らげ、ウェルビーイングを高める効果がある。1日の間にこのようなやり取りがたびたび行われれば、社員の帰属意識が高まり、リモートワークに付き物の孤独が緩和される。

 リモートワークで働く人たちを対象にした調査によれば、コミュニケーションのリズムの予測可能性が高ければ、生産性が向上し、同僚との信頼関係が強化されるという。

 マネジャーはそうしたリズムを確立するために、部内のミーティングの機会を利用して、社員同士が絆を育んだり、個人的な関係を強化したりするようにすればよい。具体的には、一緒に歌を歌ったり、写真を見せ合ったり、愉快なエピソードを披露し合ったりすることも効果的だろう。

 そのほかに、リーダーはチームの協働に関する慣行も確立すべきだ。ばらばらの場所で働くバーチャルチームの中で基本的な思考様式の共有を進めることにより、共通のアイデンティティと共通の認識を生み出せる。この点では、チームとして追求する目標を設定したり、情報の文脈を共有したり、チームのパーパスを明確化したりすることが有効だ。

 これについては、これまでのオフィスにおけるチームづくりと変わらない。オフィスで働く社員とリモート勤務の社員の絆を育む効果のあるイベントは継続すべきだし、今後はそれに加えて、バーチャル雑談やバーチャル・オフィスアワーなどの機会も用意する必要がありそうだ。

 ●社員同士の信頼と責任ある行動をどうやって育むか

 マネジャーはコロナ後の時代、リモートチーム内の長期的な信頼関係を築き直すことに苦労するかもしれない。リモートワークの場合、社員の行動やモチベーションを把握することがオフィス勤務より難しい。そのため社員の能力と信頼関係を育むことは、時として容易でない。

 この点に関して、マネジャーはテクノロジーを活用することにより、適切な目標を設定し、随時アップデートしていけばよい。テクノロジーは、目標の達成状況についてフィードバックを行うためにも有用だ。

 たとえば、ゼネラル・エレクトリック(GE)は、既存の成績管理システムを廃止して、代わりに「PD@GE」というコーチングアプリを導入した。これは、社員にリアルタイムで情報を提供し、フィードバックを行うためのものだ。マネジャーは年間を通して部下と接点を持つことで責任ある行動を促し、成長を後押しするものとされている。

 はき違えてはならないのは、テクノロジーを導入する目的が、あくまでも社員と情報を共有し、社員を導くことにあるという点だ。テクノロジーは、リモートワークの社員が仕事を怠けていないかを監視するためのものではない。

 コロナ禍が去れば、リモート型もしくはハイブリッド型の働き方を導入すべきか、導入する場合はどのようにそれを推し進めるべきかについて、戦略的判断を下さなくてはならない。意識的に計画を立てることにより、企業は主体的に自社の制度とマネジメント慣行を見直し、リモートワークのあり方を変えることができる。

 この1年間で、あなたと社員たちがどれくらい学習できたかを振り返り、その新しい知識と経験を基に、自社にとって最適の職場を築けばよいのだ。


HBR.org原文:What Is Your Organization's Long-Term Remote Work Strategy? March 24, 2021.