(3)新しい手法に関する意見の相違や誤解をオープンに議論し、解決する
変化を実行した後も、従業員は以前の習慣や慣行に対する根深い考えを持ち続ける。それが個人の認知のフレームワークに刻み込まれていて、今後もそれについて意見の相違がある限り、失敗するリスクは高い。
たとえば、筆者らが調査を行ったある企業では、パンデミック時に実施された在宅勤務の義務化について、従業員間の意見交換を開始した。オフィスに戻れる状況になりつつあるため、会社は恒久的なリモートワークの方針を検討している。
筆者らは、最初の変化に対する認識に基づき、3つの異なる従業員グループを特定した。1つ目のグループは、変化を支持し、継続を求めていた。2つ目のグループは、特別な状況下での変化には納得していたものの、パンデミックが終息すれば元に戻すべきだと考えていた。3つ目のグループは、けっして変化を望まず、以前の慣行にすぐに戻りたがっていた。
リモートワークへの移行は当初、組織全体で実施されたが、経営陣はリモートワークに対する従業員の隠れた認識の違いを把握していなかった。3つのグループとそれぞれの考え方の違いを明らかにすることで、組織は熟考し、透明性を持って話し合い、互いに一様の期待を設定することができ、結果として3つのグループのニーズをバランスよく満たす、細部にわたる在宅勤務の方針を作成することができた。
変化を実行した「後に」異なる見解を衝突させることは、利益以上に害をもたらす。変化を持続可能なものにするためには、新しい手法の理由、メリット、それにまつわる賞罰について、全員が同じではないにしても似た理解をしていなければならない。
たとえば、在宅勤務を許可されている日にオフィスで物理的な接触を伴う会議を行うべきではないとしたら、それを明確にする。そうした日にやむをえず会議をする場合は、バーチャルで参加しても罰せられないことを従業員に知らせる。さまざまな意見や認識を表面化させ、異なる考えをオープンに議論して解決させることで、期待を一致させることができる。
(4)新しい慣行を習慣化する
新しい慣行は習慣化されなければ持続しない。このフレームワークの最後のステップでは、優れた慣行を組織の現実に根付かせなければならない。
定着した習慣に戻りそうになることは日常的にある。そのため、最初の導入や説明会だけでなく、新しい慣行を定期的に強化することが重要だ。新しい手法が新しいと感じられなくなるまで、従業員に再認識させるのだ。
これは、ドライバーが新しいスピードバンプや車線変更に慣れるまで、一定期間注意を喚起するのと同じだ。従業員がみずから変化を新しい習慣として身につけることを期待するのではなく、組織はその利点を繰り返し伝えるとともに、採用の促進要因と、不採用の潜在的な阻害要因を提供しなければならない。新しい習慣は何度か試しているうちに慣れ親しんだものになり、変化が持続するようになる。
パンデミックの規制が緩和されつつある地域では、企業はこのまたとない機会を利用して、危機の際に採用した有益な慣行を維持しなければならない。効果的にそれを実行するために、リーダーは成功したものを見極め、慎重に変化を定着させるべきだ。
"Resist Old Routines When Returning to the Office," HBR.org, May 11, 2021.