(1)持続すべき新たな慣行を特定する

 パンデミックの初期には、企業は迅速かつ実用的な方法で対処し、実験することを余儀なくされた。ほとんどの企業は「後れを取ることなく生き残る」という明確な指針に従っていた。いまは、それを省みる時だ。

 最初のステップでは、企業は新たな慣行のうち何が、「なぜ」成功したのか、そしてどのような状況下で成功し続けると推測されるかを明らかにする必要がある。マネジャーと従業員が意識的にそれらを特定、認識したうえで定着させることで、新たな慣行が維持され、継続されやすくなる。

 従業員調査を実施し、危機の中で彼らがやり方を変えたものは何かを把握し、何が成功して、何が失敗したのかについて、フォローアップの議論を行う。成功したものの中から組織の共通の手順として採用できるものを厳選し、文書化し、新たに期待される慣行を従業員に伝える。

(2)古い慣行のシンボルの影響を減らす

 人は習慣に支配されている。2つの選択肢があれば、ほぼ間違いなく慣れ親しんだほうを選ぶ。古い習慣とそのシグナルは、私たちの脳に刻み込まれているだけでなく、私たちを取り巻く環境にも根付いている。言語空間配置規則作業システムには組織のナレッジが保持され、それが逆戻りの引き金となることがある。そのようなシンボルを操作したり、取り除いたりすることで、持続的な変化が促進される。

 たとえば、パンデミックの第1波の際、大学ではオンライン講義が(少なくとも特定の科目やクラスでは)おおむね有効だった。しかし、2021年の夏以降は、対面講義に全面的に戻すことを強く求める声が上がっている。

 大学の運営側は、理事からは大規模なインフラを必要とする根拠を示すよう圧力を受け、学生と保護者からは対面授業を再開するか学費の減額をするよう圧力を受けている。その結果、多くの大学が、対面での講義が必要かどうかに関係なく、対面講義の割合を最低限にすることを講師たちに強要し始めている。

 知識共創を促し、個人間の交流や物理的な近さが必要とされることから、学生と講師が同じ教室にいることが求められる講義はどれか。講師が話すばかりでバーチャルで行うのが最適な講義はどれか。よりよい解決策は、それらを慎重に判断することだ。

 100年前から存在する大学の手法が、必ずしもあらゆる学習におけるベストプラクティスではないかもしれない。しかし、大学には、教室、物理的なプリント、出席、オフィスアワーなど、元に戻ることを促すシンボルが残っている。

 組織は、新しい知識構造の導入を妨げる古い知識構造の影響を減らすことで、機能不全に陥っている手段を捨て去るべきだ。そのために必要なのが、下記の3つのステップである。

1.従業員を評価する明示的な基準と暗黙の基準を問い直し、再考する。たとえば、定期的に、時間通りに出社しているかどうか。

2. 以前は当然だと思われていたが、いまでは不必要な活動を精査し、排除する。たとえば、オフィスの会議室で毎朝行われる対面式の会議。

3. 古い規範を復活させるきっかけとなるものを特定し、変更する。たとえば、金曜日にグループでピザランチを取る習慣があった場合、在宅勤務の人も参加できるようにビデオ会議が可能な部屋で開催する。