実用最小限のプロセス
第二次世界大戦中、米国戦略諜報局は枢軸国の組織に潜入して生産性を低下させるために「シンプル・サボタージュ・フィールド・マニュアル」を作成した。このマニュアルから注目すべき事項を抜粋する。
・何事も手順に従って行うことを求める。決定を早めるために近道をすることをけっして許さない。
・可能な限り、すべての問題を委員会に委ねて、さらなる調査と検討を行う。委員会の人数はできるだけ多く、最低でも5人にする。
・前回の会議で決定された事項を参照し、その決定の妥当性について再検討を試みる。
これらは今日の大部分の組織が採用している、標準業務手順と勘違いされても無理はない。
プロセスは成果を上げ、リスクを最小限に抑えるのに役立つはずだ。しかし、それを重視しすぎると、競争力、成長、生産性、そして従業員のモラルが損なわれる。
アマゾン・ドットコムのジェフ・ベゾスは1997年の有名な株主への書簡で、意思決定のタイプ1とタイプ2の違いを説明した。
・タイプ1の意思決定は、リスクが高く、損害が大きく、不可逆的。
・タイプ2の意思決定は、低コストで可逆的。
たいていの意思決定はタイプ2で、迅速に行うべきものだ。しかし、ほぼすべての意思決定をタイプ1と見なすと、流れが止まってしまう。
このような文化的な落とし穴は、権限の委譲や承認など多くのガバナンスの手順に組み込まれ、長期的な成長を犠牲にしてタイプ2によるミスを軽減している。
たとえば、シンガポールの通信会社シンガポール・テレコムは、数多くのスタートアップ企業の買収など、大規模かつ大胆な賭けを行ってきたが、買収の管理・運営をめぐるタイプ2の意思決定が原因で最終的に失敗に終わっている。最近では、ビデオストリーミングサービスのフックが6250万米ドルの損失を出し、清算された。
メリッサ・ゴーは「テックインアジア」に寄稿した記事の中で、「同社は損害の大きいミスを避けるために厳格な承認プロセスを導入しているが、これまでに起きたすべてについて考えると、とても皮肉なことだ」と指摘している。
マネジャーは、将来的にこうした大きな代償を伴うミスを避けるにはどうすればよいのか。
●やるべきこと
・従業員にみずからの意思でタイプ2の決定をする権利を与える。
・主要なプロセスを、イノベーションとリスク管理の両方をサポートするために必要な最低限のレベルまで縮小する。
・物事を成し遂げるために必要なステップの数と、報告や会議などの頻度を減らす。
自己啓発
筆者が以前、HBRに書いたように、人材開発は破綻している。なぜなら、職務で優れた成果を上げるための学習ではなく、継続的専門研修制度(CPE)の単位取得に焦点を当てているためだ。従業員に教えられたことの多くは役に立たず、すぐに忘れられる。
ダニエル・ピンクは著書『モチベーション3.0』の中で、「熟達」が内発的動機の重要な原動力であると書いている。仕事で価値のあることを学んでいると感じられなければ、従業員は不満を抱き、より良い環境を探すだろう。
●やるべきこと
・義務的な一般講座ではなく、個人や、個人の「現在の」役割にとって重要なスキルを学ぶ機会を与える。
・現在の職務とは直接関係のない、近い将来の新たな機会を活かすことができる、みずから選んだテーマについて学ぶ機会を与える。