1. バーチャルワークでは、すべての役割や業務が平等に扱われるわけではない

 筆者らがインタビューした企業幹部たちによれば、ハイブリッドな職場では、いくつかの新しいタイプの緊張が生まれているという。社内の組織階層間にも緊張関係が生まれるし、幹部同士の間でも緊張が持ち上がる。

 とりわけ驚くべきなのは、企業の上層部内で緊張が生じていることだ。CEOは、バーチャル環境で自分たちのチームが大きな成果を上げていると感じて、大いに満足している場合が多い。しかし、組織階層でCEOよりも1つか2つ下に位置する幹部たち(バイスプレジデント、あるいは世界規模の事業を束ねる幹部チームの下で働く国ごとの責任者)はしばしば、その点に疑念を抱いている。

 この状況は、ある面では意外でない。大企業のグローバルな幹部チームの頂点に上り詰めるためには、多くの場合、セルフディレクション、ソフトスキル、曖昧な状況への対応力、そしてプレゼンテーションとスピーチのスキルが不可欠だ。そのような資質を持った人たちが集まっていれば、ズーム会議は活気あるものになる。

 しかし、社内での地位が下がると、そのようなスキルも概して低下する。筆者らがインタビューした企業幹部とミドルマネジャーの中には、バーチャル環境へのみずからの対応力にいら立ちを感じ、円滑にメッセージを発信できずにいる現状に不満を抱いている人たちもいた。

 この状況は気掛かりだ。ミドルマネジャーはしばしば、新しい複雑な状況に直接向き合い、それをマネジメントしなくてはならない立場にあるからだ。

 欧州の物流企業でCEOを務める人物は、こう述べている。「私たちは2020年の夏が終わったあと、エンゲージメントに関する調査を行いました。そこで明らかになったのは、一部のマネジャーが新しい環境への対応に苦しんでいるということでした。マネジャーの中には、状況の変化に先手を打つことで対処するのではなく、対応が後手に回り、存在感を失っている人たちもいたのです。そのようなマネジャーの部下たちは、上司のサポートを得られなくなったり、上司とのやり取りが緊迫したものになったりしていました」

 要するに、CEOは自身のバーチャル体験が全従業員の状況の典型例だと安易に考えてはならない。社内のほかの人たちがバーチャル環境に対処するのを支援するために、どのようなことができるのかを学ぶべきだ。前述の物流企業では、「マネジャー向けの研修とメンタリング」を行い、「トップマネジメント層とミドルマネジメント層を少し交代させた」とのことだった。

 筆者らの調査により見えてきたもう一つの緊張は、誰が最良のテクノロジーを利用するかをめぐるものだ。ビデオ会議システムの設備や画面サイズ、ネット接続環境などは、ある人がバーチャル環境で他人に与える印象を大きく左右する。

 コロナ禍で多くの企業は、メリットがはっきりしている用途や役職に最先端のデジタル機器を導入した。具体的には、顧客に直接対応するチームや、コラボレーションが重要な業務(複雑な戦略上の業務やイノベーション関連の業務)に携わるチームがその恩恵に浴した。

 このような最新の機器を導入すれば高い費用対効果があるかもしれないが、そうした機器はすべての従業員に等しく提供されるわけではない。同等の職階の幹部ですら、全員が利用できるとは限らない。

 筆者らの調査で同じ会社で働く人たちのインタビュー調査の内容を比較したところ、ブロードバンド・インターネット接続環境と最先端のカメラは、今日版の「デザイナーブランドのビジネススーツ」のような意味を持っているらしい。しかし、見落としてはならないのは、素晴らしい服を身につけている従業員が最も優秀とは限らないということだ。

 同じことは、バーチャル会議用の設備や環境にも言える。リーダーは、この点を考慮に入れて、部下の能力評価で判断を誤らないように気をつけたほうがよい。

 また、筆者らの調査に協力した企業幹部たちは平均すると、ポストコロナの時代にはビジネス上の出張が40%減ると予想していた。その結果、部下が上司と直接対面する機会が大幅に減少する可能性がある。

 上司は、ある部下とは対面を中心に関わりを持ち、別の部下とはリモートを中心に関わりを持つようになるのかもしれない。リーダーは、部下の評価を行う際、こうした点もしっかり考慮に入れるべきだ。