2. 人材マネジメントでは細かいニュアンスが大きな意味を持つ
筆者らがインタビューした多くのリーダーたちは、(はっきりと語る場合もあれば、間接的に言及する場合もあったが)「ハイブリッド・パラドックス」の存在を示唆している。
対面型のコミュニケーションの機会が減る中で、対人関係スキルの重要性はかつてなく高まっている。傑出したリーダーは、相手の言葉に耳を傾け、共感を示し、チームマネジメントとコーチングに多くの時間を割く。そして、コントロールよりも支援を重んじ、オフィスだけでなく従業員の自宅にも波及する組織文化を築こうと努める。
もっとも、こうしたことを実践するのは口で言うほど簡単ではない。企業幹部たちは筆者らの調査に対して、チームの集合的な精神や決意を実感することが難しくなったと嘆いている。マイクロソフト・チームズやズームなどを活用したビデオ会議では、一人ひとりの参加者の顔が画面上の小さな四角形の中に表示されるにすぎず、グループの反応をはっきりと感じ取ることができない。
あるリーダーによれば、ボディランゲージがある程度以上の重要性を持つかもしれないケースもあるという。「私たちは年に2回、事業の再検討を行う機会を設けています。その場には、リーダーチームのメンバー全員が集まります。この会合は、今後も対面で行うつもりです」と、その人物は述べている。
「直接顔を合わせて話せば、ほかの人のボディランゲージや表情を知ることができます。現在、チーム全体の反応はわからない状況です。一方、月例の検討会は、マイクロソフト・チームズを使って行っています。ボディランゲージを把握する必要がないからです」
問題は、定例の会議だけではない。企業幹部は、オフィスの食堂や合宿研修の場で簡単に部下たちの様子を観察できなくなり、部下がどのようなモチベーション要因や不安材料を抱いているかを察知する必要性が高まっている。
たとえば、バーチャル・ハッピーアワーのような場では、ビデオがオンになると参加者はたいてい笑顔をつくるものだ。したがってリーダーは、部下が意識的に見せているものに留まらず、もっと深く部下を理解するために、いっそう多くの努力を払い、高度なスキルを持たなくてはならない。
ハイブリッド型の職場では、そのような徹底した観察を行うスキルが、リーダーにとって不可欠なものになる。ある企業ではわざわざ心理学者を雇い、メンバーを観察して支援させている。
最終的には、リーダーは聞くスキルとコミュニケーションのスキルを新たな環境に適応させる必要があるだろう。「(リモートワークが)すぐに終わることはないとわかると、それに合わせてリーダーシップのスタイルを変更すべきだと判断しました」と、ある世界規模の日用品企業のCEOは述べている。「私の実感では、チームの議論と1対1の話し合いはいずれも、対面式で行っていた時よりも深く、私的なものになっています。最近は、メンバーとの距離がずいぶん縮まりました」
一方、コミュニケーションのあり方が変化するのに伴い、イノベーションと再生のために時間的余裕が不可欠だと、多くの企業幹部が述べている。企業幹部たちは、従業員が孤独を感じるのではないかと心配することが多い。しかし、彼らは一人になれないことにもストレスを感じている。
最近は、カレンダーに会議の予定がぎっしり詰まっている人が多い。以前ならオフィスで随時行っていた同僚との話し合いを、すべて正式にスケジュール設定しなくてはならなくなったことが大きい。
リーダーはこの問題に対処するために、自分自身とチームのスケジュールに関して、いっそう規律を大切にすべきだ。会議や1対1の話し合いに割く時間と、一人で集中して仕事に取り組む時間や休息の時間のバランスを取ることが重要になる。
このような人材マネジメントの機微を理解しているかどうかは、成功するリーダーと成功できないリーダーの差を生む要因になるだろう。