4. ハイブリッド型を採用した場合も、危機に対処できるプロセスを築くことを怠ってはならない

 ハイブリッド型のモデルは、企業が柔軟性を確保し、危機に対処するうえで重要なツールになると期待できる。あるリーダーは、筆者らの調査に対してこう述べている。コロナ危機を通じて学んだのは、「組織がいかに素早く変化でき、いかに変化に耐えることができるのかという点でした。今回の危機を通じて、その可能性に限界はないのだとわかりました」

 企業の経営陣はこれからも、取締役会や投資家からレジリエンス(再起力)を発揮することを強く求められ続けるだろう。今後もさまざまな危機が訪れることは間違いない。

 筆者らがインタビュー調査を行った企業はすべて歴史のある大企業だったが、これらの企業の中にも、どのくらい準備態勢が整っているかにはかなりの差があった。しかし、この1年間の経験を通じて見えてきたのは、規模の大きい企業ほど、危機に対処できるプロセスとモデルを用意しておき、それを活用することの恩恵が大きいということだった。

「私たちはいつも最善の可能性を願う一方で、最悪の事態に対処できるように準備しています」と、巨大生産財企業のCEOは述べている。「2020年1月、当社の中国の現地部門から感染症についての報告が届き始めました。それを受けて1月23日には、グローバルな危機に対応するシステムを確立しました。これは既存のプロセスを土台にしたものでしたが、中国や韓国の状況に関する情報が入ってくるのに合わせて、そのプロセスを大胆に変えていきました」

 コロナ危機では、旧態依然の働き方を続けることの弊害がひときわ大きい。

 せっかくコロナ禍により大きな戦略上のチャンスが生まれたのに、既存の活動を継続することの負担が大きすぎて、そのチャンスを活かせていないと、一部のリーダーは嘆いている。現在の状況に対処するための適切なプロセスを欠き、自分たちが経験する心身のダメージを軽く見すぎていたのだ。その結果、企業幹部たち、市場のトレンドを見通し、その対応策を考えるだけの知的対処能力を持てずにいた。

 21世紀に入って以降、およそ10年に1度のペースで大きな危機が起きている。そして、その合間にも小さな危機がたびたび発生している。気候変動と地政学上の不確実性が、そのペースを加速させているのかもしれない。

 企業幹部は将来起こりうるあらゆる危機に対して、細部まで徹底して準備しておくことはできない。しかし、危機を乗り越えられることが実証済みの強靭な内部プロセスを確立しておくことはできる。

 たとえば、感染症の流行や大都市を襲う自然災害(2012年にニューヨークで大洪水を引き起こしたハリケーン・サンディなど)のような危機はしばしば、企業が従業員の在宅勤務を推進する要因になる。

 だが、サイバー攻撃、広範なインターネット接続の遮断、大規模停電のような危機は、従業員が1カ所に集まって働くほうが対処しやすい。従業員同士が近い場所で活動できるし、オフィスのほうがバックアップ施設も充実しているからだ。

 その点、ハイブリッド型のモデルを採用している企業は、さまざまな状況で事業を行う方法を心得ているので、どのような危機に直面しても、ボトルネックや困難を回避できる可能性が高い。

 コロナ禍によりもう一つ見えてきたのは、強靭なプロセスを築くために投資をしておけば確実に報われるということ、そしてそのようなプロセスは前もって計画しておく必要があるということだ。

 ハイブリッド型のモデルを採用している企業では、リーダーとチームのメンバーが厳しい状況に対処しやすい。強靭なプロセスとコントロールシステムを整備するために投資を行い、リアルな環境とバーチャルな環境における一人ひとりの役割に関する理解を共有できているからだ。

 あるリーダーはこう述べている。「今回の危機により、必要な組織変革を大至急で実行し、『適切な時期を待つ』という発想に陥らないことの重要性が改めて浮き彫りになりました。厳しい状況下では、どのようなケイパビリティや発想が足りていないかがはっきり見えてきます。そうした不足は誰かが埋め合わせることになりますが、そのような状態は言うまでもなく長続きしません」

 ハイブリッド型のモデルは、新しい職場のあり方を形づくる際の強力なツールになる。しかし、北欧企業のリーダーたちが経験した4つの重要課題からも明らかなように、リーダーは自社の組織に潜む緊張を見逃さず、新たに築く長期的なモデルにその問題が入り込まないように気を配ることが重要だ。


"4 Imperatives for Managing in a Hybrid World," HBR.org, June 28, 2021.