中国や欧米で進行する5G活用の野心的な取り組み

 次に、5Gに対する世界の取り組みと現状について見ていきます。この分野では現在、諸外国の野心的なリーダー企業がそれぞれの産業変革に向けた取り組みを急速に進めています。

 その急先鋒である中国では、国全体の成長戦略を追い風に5Gへの技術投資が盛んに行われています。中国は2025年までに世界の製造強国入りを、さらに建国100周年の2049年までに製造強国のトップグループ入りを目標とする産業政策「製造2025」を推進しています。

「製造2025」では、10の重点分野を主軸として次世代の情報技術と製造業の融合による産業変革が掲げられています。5G は、まさにその中核を担うインフラ技術の1つです。

 これらの政策を牽引する企業の1つとして挙げられるのが、建機メーカーの三一重工(SANY)です。同社は2020年に時価総額で日本のコマツを抜き、世界第2の建機メーカーとなった成長実績で知られています。

 同社では「製造2025」を背景に、持続可能な労働力の確保と生産コストの半減を目標に掲げ、Huaweiなどのテクノロジー企業との提携を通じて、産業向けの5GとMECを活用したロボットの普及価格化に取り組んできました。

 その結果、たとえば自動運転のフォークリフトの価格を現行の約9分の1まで低減することで、人間の労働者よりもコストを抑えながら、ヒトと互角あるいはそれ以上の生産性を実現することを目指しています。製造業において労働力の確保およびその人件費は重要な因子であり、競争力の強化と国内産業の育成という中国政府の戦略を実現する上でも、5GとMECの組み合わせは極めて効果的です。

 5Gを活用した製造業における産業変革の取り組みは、欧米でも着実に進行しています。「Industrial Internet」をスローガンに掲げる米国において、ガラスメーカーのCorningがプライベート5GネットワークとMECを用いて、高度なオートメーション基盤を構築しているのはその一例です。

 またドイツでは、自動車メーカーのAudiが工場にローカル(プライベート)5Gを導入し、部品溶接用ロボットの高速化とリアルタイムのデータ収集を実現しており、現在は国内外の工場への展開を計画中です(こうした海外の5G活用事例も含め、様々な産業における5Gの活用可能性をまとめたアクセンチュア監修のムック本「5G×産業変革」(日本経済新聞出版刊)が6月に出版されています。関心をお持ちの方はご一読ください)。