現在、ビジネスとテクノロジーの両分野で、最も注目されているキーワードの1つが5Gだ。「高速・大容量」「超低遅延」「同時多接続」を特長とする5Gは、2023年からいよいよ本格的なサービスの普及が見込まれる。
5Gがもたらすメリットは、単なる通信速度の向上だけではない。ビット単価の大幅な低減によって広範な産業分野に新たな変革をもたらし、DXを加速する大きな可能性を秘めているのだ。
本論考では、5Gの真の価値と日本企業に求められる取り組みについて、現在の世界の動向を概観しながら考察する。
5Gに秘められた産業変革の巨大なポテンシャル

ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ 通信・メディア プラクティス日本統括 マネジング・ディレクター
廣瀬 隆治
5Gというと、これまで一般的にはスマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスの通信速度が飛躍的に向上するといったイメージばかりが先行してきた側面があります。
もちろん、通信速度の向上は消費者にとって大きなメリットなのは確かですが、企業にとっての5Gの真のビジネス的価値は、むしろ別のところにあります。
5Gがビジネスにもたらす大きな価値。それは、ビット単価(データ量あたりの単価)が大幅に低減されることです。
ビット単価が依然割高な4G時代において、産業領域でコネクテッド化の対象となるデバイスは、主に数百万円単位の高額な大型機器に限定されていました。しかし、5Gの時代になると、ビット単価の低減によってデータ収集のコストが抑えられ、小型で低スペックの機器にまでコネクテッド化の対象が拡張されます。
製造機械に取り付けるセンサーなど、IoTのエッジデバイス(インターネットに接続されたデバイス)自体の低価格化ともあいまって、データ活用の裾野は一挙に拡がり、DXが劇的に加速します。
また、多様で膨大なデータを安価に取得できるようになれば、AIの活用範囲も急速に拡大します。こうしたことを踏まえると、5Gの本格的な普及は、企業のデータ活用を後押しする無限の可能性を秘めていると言えるでしょう。
5Gはそれ自体の革新性に加えて、周辺技術との組み合わせによってさらなる可能性を生み出します。
その代表が、基地局近傍にデータ処理基盤を配置して、超低遅延で分散処理を行う「MEC(Multi-access Edge Computing)=メック」です。
これまでのIoTの営みの多くにおいて、エッジデバイスから取得したデータは、ネットワークを介してクラウドやデータセンターに集約され、一括処理が行われ、必然的に遅延が発生していました。
これに対してMECでは、基地局の近傍に処理基盤を置くことで、ネットワークの伝送距離・時間を短縮。さらに処理の負荷を分散することで遅延を極小化し、たとえば製造現場で期待されるようなほぼリアルタイムのデータ分析・活用を可能にします。
これはまさに、5Gと周辺技術の組み合わせが生み出す新たな価値と言えます。
MECの他にも、ネットワーク層を仮想的に分割し、重要性に応じて通信の優先順位を制御するなど、より柔軟なサービス提供を実現する「ネットワークスライシング」や、企業・自治体などが独自のモバイルネットワークを構築・利用できる「ローカル(プライベート)5G」といった周辺技術が次々と実用化されつつあり、こうした技術の普及にも大きな期待がかかるところです。
5Gがもたらす産業変革の可能性は、氷山に例えるとわかりやすいでしょう(図表1)。4Gによって水面に見えている氷山の一角、主にヒトを中心としたデータ活用=コミュニケーションに変革がもたらされたのに対して、5Gは産業向けのユースケースを下支えするコンポーネントとして、無意識的なデータ活用の促進に貢献します。
つまり5Gは、水面下に隠れている氷山の本体にも匹敵する、巨大なポテンシャルを秘めていると言っても過言ではありません。

図表1:5Gは産業向けに「モノのデータ活用」を大幅に拡げる可能性を持つ