●変化に対する説明責任の仕組みをつくる

 有色人種の女性は自分に似たリーダーがいないと、幹部職には自分の居場所がないと考えるか、健康や自己価値やウェルビーイングを犠牲にするほどの価値はないと思いがちだ。

 こうした心理は、自分には「無理だ」という不安や自己不信を助長するだけはない。同僚や上司からも、そうしたリーダーシップを発揮する力も野心もないとして扱われかねないのだ。

 根深いインポスター症候群が最上級のリーダーシップから最下層の職種まで広がっていることを、事例データと定量データの双方を踏まえて認識している組織は、それらのデータを構造改革のための行動につなげる必要がある。たとえば、次のような行動が考えられる。

・すべての従業員のパフォーマンスが、会社のDEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)の具体的な目標をどのように達成したかを評価する。

・人種、性別、能力など主要な指標に基づく同一労働同一賃金の測定など、現在および過去のデモグラフィックデータを公開する。

・CDO(最高ダイバーシティ責任者)に、CEOに直接報告するルート、適切な予算、明確な意思決定権を与える。

・年間を通じて教育的・文化的な意識向上のための活動に参加するように、最低限の義務を決める。

・社会的アイデンティティの違いを超えて、すべての従業員が歓迎され、インクルーシブで心理的に安全な職場環境を醸成するために、さらなる努力が必要な従業員のパフォーマンスを改善して、結果につなげるような計画を策定する。

 聞き取り調査や組織文化の可視化など、従業員の経験を深く理解するための手段は、DEI戦略を決める際に貴重なツールになる。ただし、企業は従業員からフィードバックを集めることを、目的を達成するための手段ではなく、目的そのものとしがちだ。

 DEIの原則に関する研修を提供している企業も、職場で不公平を生んでいる方針や慣行を変えるためにそれらの研修を利用することには、抵抗を感じるかもしれない。

「(DEI以外の)研修を受けた後は、研修によって変わった環境で働けると思うものだ」と、トーマス博士は言う。

「要するに、エクセルの使い方を教えてから、PCのない職場に帰らせるようなことはしない。しかし、これらの問題(DEI)の研修を行った後に、研修を受けたのは自分だけで、自分が学んだ内容を周囲の誰も知らず、研修の成果を活かしても評価されないという環境で引き続き働かせている。自分が学んだ内容が混乱を招くと感じれば、実践することに躊躇して、みずから制限するかもしれない。これは組織の責任だ」

 組織の変化は、すべてのレベルのマネジャーが変化に対して責任を負うことで、持続的かつ効果的になる。変化に報いる説明責任のメカニズムがなければ「モチベーションはほとんど上がらない」と、トーマス博士は言う。

 個々の女性の軌道修正を図るのではなく、よりインクルーシブな環境をつくることによって、インポスター症候群に取り組む責任をリーダーが引き受ける時、すべての人が恩恵を得られる。インポスター症候群を助長する職場文化は、重要な人材を失いかねない。

 自己不信、躊躇、自信の欠如といった人間の自然な傾向を「インポスター症候群」と呼ぶのをやめよう。女性に才能や専門性を最大限に発揮してもらいたいのであれば、職場における女性の自信ではなく、職場の文化を問い直そう。リーダーシップのさまざまなスタイルを認めて、祝福し、すべての人が歓迎されて活躍できる職場文化を育むのだ。

【編注】
Creating a Respectful and Open World for Natural Hair(自然な髪を尊重する開かれた世界をつくる)の頭文字。2019年からカリフォルニアなど7つの州議会で法案が提出されている。ただし、成立したのはカリフォルニア州のみ。


"End Imposter Syndrome in Your Workplace," HBR.org, July 14, 2021.