HBR Staff/Martin Barraud/ Ivan Burchak/Getty Images

「大退職時代」(グレート・レジグネーション)を迎えたいま、企業は離職者の穴を埋めることに必死だ。人材獲得競争が激化している状況で、さらに離職者が続けば、優秀な候補者が見つかり次第、すぐにでも採用したくなるのは無理もない。そこで置き去りにされがちなのが、ダイバーシティ採用の取り組みだ。しかし、これまでの道のりを後退することなく、必要なポジションを埋めることと両立させなければならない。そのためには従来の慣習を捨て、ダイバーシティ採用戦略を根本から変える必要がある。本稿では、これまで正しいと信じられてきた6つの神話を解体し、具体的にどのような対策を講じるべきか論じる。


 嵐のように状況が目まぐるしく変化したこの1年間、職場のほとんどで従来の規範が崩れるとともに、ほぼすべての組織でダイバーシティが最優先課題の一つに上がってきた。

 ところがいま、新たな課題に直面しようとしていることにリーダーは気づき始めた。世界の労働者の40%以上が、向こう1年間に離職する可能性があるというのだ。

 出社勤務復帰の指示とコロナ禍で先延ばしにされていた転職の計画、そしてよりよいワークライフバランスを求めることへの新たな気づきが相まって、驚くほど短期間に、記録的な数の人々が仕事を辞めようとしている。

 これは、企業のダイバーシティ実現に向けた努力に、大きな影響を与えるだろう。すでに多くの問題に直面してきた人材チームはいま、離職者の穴を埋める、十分な資質のある人材を確保するのに苦戦している。そこで、さらにダイバーシティ拡大にもつながる人材を見つけるのは、至難の業だ。

 過小評価グループから優秀な人材を採用しようとしても、獲得競争が激しいのが現実だ。しかも、既存の従業員でさえ、その多くが今後1年で会社を去っていこうとしている中で、組織はダイバーシティ低下のリスクにさらされている。

 筆者のチームはこの2年間、ダイバーシティ採用戦略を取り入れている数百の企業を対象に調査を行ってきた。その結果、ダイバーシティに対する組織としての注目度とそれを実践する活動レベルが、過去最高になっていることが判明した。

 しかし、労働市場の変化がそれを脅かしており、ダイバーシティを高める積極的な努力は、空席を埋めるという受け身の努力へと軌道修正を強いられている。

 ある企業のチーフ・タレント・オフィサーは最近のインタビューで、「現在の状況では、必要なポジションに適格な候補を見つけることにとても苦労している」と、筆者に語った。「ましてや、ダイバーシティ採用の目標を達成するのは、非常に困難だ。当社のリーダーのほとんどは、適切な資質を持つ人材を見つけたら、ダイバーシティを考慮せず、すぐに採用を決定している」

 この重大な岐路で後退してしまうことを回避するには、組織は従来の慣習と決別し、ダイバーシティ採用のアプローチを根本から変える必要がある。

 人材獲得競争が激しい状況下では、昔ながらの採用活動に戻ろうとするのは自然な傾向だろう。リーダーは、空きポジションを埋めることとダイバーシティを推進することのどちらを優先するかではなく、両者を同時に進める必要がある。そのためには、歴史的にダイバーシティ採用を脅かしてきた、いくつかの神話を解体しなくてはならない。

 人材リーダーが、従業員の間でいままさに生じている大きな変化を、大きな進歩に変えるための6つの戦略を紹介する。