スイッチングコストを削減する
組織的な取り組み

 スイッチングコストの非効率性を軽減し、従業員が成果を上げられるようにするために、企業が組織レベルでできることはいくつもある。

 パンデミックが始まると、たとえばズームやスラックなどのツールがコラボレーションの手段としてますます重要になった。ウーバーはこれらのツールの使用状況を追跡調査し、次のような傾向がわかった。(1)ミーティングが40%増え、1回の平均参加者数が45%増えた。(2)ズーム会議とスラックのメッセージが3倍以上に増えた。

 その結果、フォーカスタイム(1日に連続で2時間以上、タスクやプロジェクトに専念できる時間)が30%減少した。一方で、従業員のフォーカスタイムの長さと、従業員アンケートをもとに測定した生産性との間に強い関係があることもわかった。

 これらのデータは、生産性を高めようとして、より多くのミーティングを予定して参加するというコラボレーティブ・オーバーロードの「罠」を物語る。このようなミーティングは集中力を奪い、結果的に生産性を低下させる。

 ウーバーの調査から、従業員が成功するために必要なインサイトとツールの両方を手に入れると、自分の仕事量をよりうまくコントロールして、ウェルビーイングを高められることもわかった。同社は情報提供と能力開発の支援(イネーブルメント)という2つのアプローチで、コラボレーティブ・オーバーロードに対処している。

 たとえば、2020年後半に行った実験では、従業員のグループにフォーカスタイムが生産性に与える影響を(生産性を向上させるヒントと併せて)伝え、その情報を得なかったグループとフォーカスタイムを比較した。すると、情報を得たグループはフォーカスタイムが適度に増えた。

 別の実験では、自分に必要なフォーカスタイムを定義できるアプリケーションを導入し、ミーティングの予定を管理して各自のカレンダーを最適化できるようにした(いわばバーチャルな秘書だ)。これにより、実験グループのフォーカスタイムは約20%増えた。

 まだ発展途上の取り組みだが、これらの実験は、コラボレーティブ・オーバーロードに対処するためには情報と能力開発の支援の両方が必要であることを示している。インサイトは、従業員が行動を起こすコンテクストを提供するという意味で必要だが、それだけでなく実際に行動するためのチャネルも必要なのだ。

 フォーカスタイムのためのアプリケーションや職場のデザインといった具体的な介入は、より効果的なコラボレーションを可能にする。ただし、なぜそれらが重要なのかという背景を理解していないと、従業員は十分に活用できないかもしれない。真の変化をもたらすには、ツールとコンテクストの両方が必要になる。

 ウーバーは2021年に入ってからも、情報と能力開発の支援を組み合わせることで、従業員のより効果的なコラボレーションを手助けしながら、パフォーマンスの向上とウェルビーイングの充実を目指している。

 コラボレーションに関する(ピープルアナリティクスなどのチームから得られた)インサイトやヒントを、全社レベルの会議やコミュニケーション、マネジャー開発リソース、従業員向けニュースレターに取り入れている。同時に、ツールやアプリケーションを使ってチーム単位の支援も継続している。