敵は自分の中にもいる
企業がコラボレーションの量だけに注目して見落としがちなコラボレーティブ・オーバーロードの要因は、混乱やスイッチングコストだけではない。
もう1つの重要な要因は、個人的なモチベーションから生じ、私たち一人ひとりのオーバーロードを不必要なほど急激に増やしている。そして、その影響は自分で理解しているよりも、あるいは認めたいと思っているよりも、はるかに大きい。
コラボレーティブ・オーバーロードの話になると、手に負えない量のメール、立て続けの会議、要求の多いクライアント、理不尽な上司といった「犯人」を責めずにいられない。しかし、筆者らの研究によると、オーバーロードの主な要因の約50%は、自分自身の中にある。
私たちは皆、あまりに多くのコラボレーションにみずから飛び込んでいる。それは一瞬の判断で、依頼される時もあれば、協力すべきではないとわかっていても、自分が手助けできるはずだと思う時もある。
何かを頼まれて、どう考えても断るべきだとわかっているのに、やらなければならない理由を一瞬で見つけて自分を納得させたという経験は、多くの人があるだろう。みずから手を挙げた6週間後には、本当に関心のある仕事をする時間がないのはなぜだろうと悩むのだが。
筆者らの過去10年の調査から、これこそが個人のコラボレーティブ・オーバーロードの最大の要因であり、最も変えにくい傾向であることがわかっている。
私たちは小学生の頃から積み重ねてきた、心の底のモチベーションや物事のやり方というトリガーに反応して、コラボレーションに飛び込んでいく。そして現実には、コラボレーティブ・オーバーロードは気づかないうちに進行する。自分が重要な存在だと見なされている、物事に深く関わっているという感覚は、オーバーロードに耐えられなくなる直前まで、気分がよいものだ。
筆者らは、多くの人をトラブルに巻き込む共通のモチベーション──「アイデンティティトリガー」──を発見した。重要なのは、自分のトリガーを特定し、トラブルに飛び込みそうになった瞬間に立ち止まるためのマントラ(呪文)を決めることだ。
シリコンバレーで成功したあるエグゼクティブは、奉仕の精神にあふれ、人の役に立ちたいと願っているが、「イエスと言うことは、ノーと言うことだ」と自分に言い聞かせるようになった。消費財メーカーで成功したあるリーダーは実績を重ねてきたが、「この問題を解決できるのは、本当に自分だけなのか」と自問するようにしている。
たとえば、次のようなトリガーに警戒したい。
・アイデンティティや評価のトリガー:誰かを手助けしたい、達成感を得たい、影響力を持ちたい、認められたい、よい同僚や貢献者と思われたい。
・不安やコントロール欲求のトリガー:プロジェクトや成果のコントロールを失うことに対する不安、自分が収束させたいという欲求、曖昧さへの嫌悪、FOMO(Fear of Missing Out:チャンスを逃すことへの不安や焦り)。