(4)単純緊急性効果

 ストレスを抱えている時は、一見すると緊急性の高い(しかし実際は重要ではない)タスクをこなすことで、ストレスが和らぐことがある。

 これは「単純緊急性効果」と呼ばれる現象だ。会議の予定を入れたり、出席したりすると、何かを成し遂げたような気分になるので、たとえ他の仕事と比べて客観的に重要でなくても、断ったりキャンセルしたりしたくないと思いがちだ。

 さらに、強い惰性が状況を悪化させる。いつも決まった時間に、決まった会議をしていると、それが本当によいことかどうかを考え直すより、そのまま続けたほうがずっと楽だ。

 そこで、繰り返し行われている会議は特に、キャンセルするか早めに切り上げることを前提にする。「誰か最新の報告がありますか」と聞くのではなく、「誰も新しい情報がないなら、会議はキャンセルして1時間を有効に使おう」と言うのだ。

 それが必要な会議かどうかを判断できない場合は、とりあえずキャンセルしてみる。繰り返し行われる会議では、次回の開催が必要かどうかを定期的に確認する。

(5)会議健忘症

 前回の会議で何が話し合われたかを誰も覚えていないために、同じような「悪い会議」を繰り返すことも、あまりに多い。

 この会議健忘症を回避するために、たとえば、社内外の主要な電話会議の後に、5分間の短いチーム・デブリーフィングを設ける。完全にバーチャルな環境では、このようなデブリーフィングが特に重要になる。非公式なコミュニケーションの機会が少ないため、会議の運営者は、従業員(特に若手)が混乱したまま回線を切ったことに気づきにくいからだ。

 さらに、リーダーは何が語られ、それがどのような意味であるかを記録し、その要約を出席者や出席していない関係者と共有することを習慣にする。重要なのは、実況中継のように会議のすべてを記録することではなく、議論の要点とやるべきことを簡潔にまとめ、可能な限り情報にアクセスしやすい形式で提供することだ。

 このドキュメントを定期的にレビューすると、会議が生産的かどうかや、将来的に会議を中止あるいは短縮する意味があるかどうかを、チームで判断しやすくなる。

(6)多元的無知

 3時間に及ぶ退屈な会議に出席して、この会議が無意味だと理解しているのは自分だけではないかと、考えたことはないだろうか。そのような時は、出席者の中で最もいら立っているのは自分だと思いがちだが、心理学的にはそれは錯覚であることが多い。

 多元的無知とは、皆が同じことを経験しているにもかかわらず、他の人は自分と同じようには感じていないと思い込むことだ。このバイアスにより、誰もが内心では役に立たないと思っている会議でも、そう思っているのは自分だけだと決めつけて、会議の予定を組んだり、出席したりし続ける。

 多元的無知を克服するために、リーダーはチームが不満やフィードバックを率直に共有できるようにうながし、チームが協力して非生産的な会議を特定し、排除する習慣をつくる。

 筆者らは近く発表する研究で、ある企業のメールとカレンダーのデータを使い、出席者が最もマルチタスクを行なっている会議をいくつか特定した。その結果をあるチームに伝えたところ、マネジャーが誇らしげに言った。「あの会議には何週間も前に出るのをやめたよ。時間の無駄だった!」

 そして、彼はこう続けた。「いや、待ってくれ。どうしてみんなまだ出ているのか。この会議は完全にやめるべきではないか」。実際、誰もその会議が好きではないことがわかった。緊張して、何も言えなかっただけなのだ。

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 言うまでもなく、現代の職場における会議依存症に、万能の治療法はない。筆者らが発見した落とし穴は、人間の普遍的なバイアスに起因するものであり、これらのバイアスを克服することは非常に難しい。しかし、悪い会議の背景にある心理を理解することで、マネジャーもチームも、より健全なコミュニケーションの規範と、より効果的な相互作用と、より整然としたカレンダーを目指して努力できるだろう。


"The Psychology Behind Meeting Overload," HBR.org, November 12, 2021.