コロナ禍において、働き方の柔軟性が問い直されています。従業員だけでなく企業にとってもメリットのある「働きやすさ」とはどのようなものでしょうか。そこで、『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)2022年3月号では、「『働きやすさ』のマネジメント」と題した特集を組みました。

「働きやすさ」のマネジメント

 新型コロナウイルス感染症の拡大を機に、従業員は働きやすい環境を強く求めるようになりました。いつ、どこで、誰と働き、そしてどのタイミングで休暇を取るのか。こうした働き方の柔軟性(フレキシビリティ)の要望に、企業は応えなければなりません。

 しかしながら、単にリモートワークやフレックス制度を導入すればよいかというと、それは違います。組織の生産性の向上を目指しながら、職場の公平性や男女間の賃金格差、スタッフの燃え尽きなどに注意を払うことが欠かせません。組織として「働きやすさ」をマネジメントしなければ、有能な社員ほどすぐに退職してしまう時代になったのです。

 特集1本目では「フレキシブルワークで企業と従業員の相互利益を実現する方法」を提案します。働きやすい職場をつくるには、従業員の期待に応えるだけではなく、企業の生産性も高める「真のフレキシビリティ」を目指す必要があると述べます。そのためにはスケジュールや場所、継続性、作業負荷、勤務形態の5つの組み合わせから制度設計し、それが従業員と雇用主のメリットにどうつながるのか熟慮することが肝心です。

 特集2本目は「ハイブリッドな職場にどうすれば移行できるのか」です。HBR読者から寄せられた12の質問に対して、ハーバード・ビジネス・スクールのセダール・ニーリー教授がQ&A形式で回答します。リモートワークとオフィス勤務を組み合わせたハイブリッド型勤務の素朴な疑問から、新入社員のオンボーディング、業績の測定法、そしてセキュリティ確保まで幅広い質問に答えます。

 特集3本目は「日本マイクロソフトはワークスタイル変革をいかに実現したか」と題し、同社の小柳津篤氏がおよそ20年かけて取り組んできた取り組みを記載しています。同社は、「働き方改革」の先進企業として取り上げられることも多いのですが、その本質は社員の福利厚生よりも、生産性と組織力向上に焦点を当てた活動であったことがわかります。特に、組織内外のコラボレーションの重要性が高まる現代において、働き方の多様性を競争力につなげる3つのポイントをお伝えします。

 また、日本マイクロソフトも含め、試験的な取り組みとして企業に広がっているのが「週休3日制」です。そこで特集4本目では、従業員のストレスが軽減される一方、休みが増えても生産性は損なわれないという点に言及したうえで、「週休3日制の導入に向けた6つのステップ」を提示します。

 さらに視野を広げるためのインタビューが2本あります。まず、ハーバード大学のクラウディア・ゴールディン教授は「働く時間の柔軟性がもたらす負の側面を見落としていないか」と問いかけます。労働経済学が専門の教授によれば、仕事の柔軟性が男女間の賃金格差を助長することもあるそうです。

 一方、この分野の取材を続けてきたジャーナリストたちは「リモートワークは福利厚生の一つではない」と企業側に訴えかけます。リモートワークに対する従業員と雇用者の感情の間になぜミスマッチが生じるのか、そして企業はどうあるべきか。これからの働き方のあり方を考えるうえでのヒントがあります。

 このように、従業員と企業の両方が恩恵を受ける「働きやすさ」を実現するうえで欠かせない視点を盛り込んだ特集です。より大局的な見地でマネジメントを行う手助けになるはずです。ぜひご一読ください。

(編集長・小島健志)