3. ナレッジワーカーの人材争奪戦に向けて、報酬引き上げの代わりに労働時間を短縮する企業が出てくる
現在の労働市場で人材を引き付け、定着させるために、雇用主は大幅な報酬増を提示している。筆者らの調査によれば、米国では過去の標準的な昇給率が2%だったのに対し、この1年間の上昇率は4%以上に達している。
ただし、インフレを考慮すると実質賃金は減少している。そしてインフレがこのまま進行した場合、従業員の購買力という観点で見れば、提示した報酬の価値がどんどん低下していくことに雇用主は気づくだろう。
報酬だけで人材争奪戦を戦える企業がある一方で、その財源がない企業もある。そこで報酬アップによって人材争奪戦に勝とうとするのではなく、報酬は据え置いたまま、従業員の労働時間を減らす企業が出てきた。
歴史的に見ても、賃金が上昇するほど、労働者にとって余暇時間の価値と魅力は高まるものだ。賃金の変動が小さい企業が労働時間を減らすことで、全体的な報酬は高いが労働時間の短縮を行わない組織と競争するチャンスを得られる。最終的には、ナレッジワーカーを獲得するための新たな手法として、報酬は据え置きで週32時間勤務制を採用する組織が一部に登場する可能性も高い。
4. ナレッジワーカーのハイブリッドワークやリモートワークが当たり前になるにつれ、従業員の離職率は高まり続ける
いつ、どこで、どのように働くかに関する柔軟性は、もはや差別化要因ではなく、最低限の必須条件となっている。
米国の労働者は、勤務先に確定拠出年金401(k)があると想定するのと同じように、働き方の柔軟性を期待している。柔軟な働き方を提供できない企業では、自分の希望に添った価値を提供してくれる仕事に転職する従業員が増えるため、離職率が上昇することになる。
多くの企業にとっては残念な話だが、今日の厳しい労働市場では、柔軟性を高めても離職率は下がらず、むしろ2つの理由で離職率は上昇する。
第1の理由は、従業員を引き留める力が弱くなることだ。ハイブリッドやリモートで働く従業員は職場に友人が少なく、同僚との社会的・感情的つながりが希薄になっている。そのようなつながりが弱くなると、長く勤め続けるよう背中を押す社会的圧力が弱まり、従業員が仕事を辞めやすくなる。
2つ目の理由は、潜在的な雇用先のプールが増えるにつれて、従業員を現在の仕事から引き離そうとする力が強くなることだ。ハイブリッドワークやリモートワークが一般的になるほど、働ける組織の地理的な範囲も広がっていく。
こうした離職リスクの増大は、少なくとも週に1度はオフィスに出社することが求められるハイブリッド型モデルでも変わらない。それほど頻繁に通勤する必要がなくなれば、従業員は長時間の通勤も気にしなくなる。つまり、従業員の通勤時間の許容範囲に合わせて、潜在的な雇用主の数も増えていく。
これらの要因のために、過去のどの水準よりも高い離職率が続き、「大退職時代」(グレート・レジグネーション)は「持続的退職時代」(サステインド・レジグネーション)にシフトしていくだろう。
5. 管理業務が自動化され、マネジャーが従業員と人間的なつながりを深める余地が生まれる
マネジャーと従業員の関係が、これまで以上に重要になってきている。ハイブリッドワークやリモートワークを行う従業員にとっては、マネジャーが雇用主との主要な接点となるためだ。また、公正さに関する懸念が表面化し、その懸念が高まる中、現場の最前線にいるのはマネジャーだ。従業員が人目につく形で抗議するか、会社と従業員が共同で解決に当たれるかは、マネジャーの手腕にかかっている。
時を同じくして、HRテック企業は、スケジュール管理、経費報告の承認、直属の部下によるタスク遂行のモニタリングなど、繰り返しの多い管理業務の多くを代行する製品を開発してきた。
次世代テクノロジーにより、パフォーマンスに関するフィードバックの提供や、従業員同士が横のつながりを構築するサポートなど、さらなる管理業務の代行も可能になるだろう。筆者らの調査では、現在マネジャーが行っている業務のうち、2025年までに、最大で65%が自動化される可能性がある。
このような自動化の進展に伴って、企業はマネジャーの数を減らすか、それともマネジャーという仕事の位置付けを変更するか、という選択を迫られることになるだろう。
マネジャーの担当する監督範囲を拡大して、より多くの部下を管理させることにした組織では、マネジャーの人数が減るため人件費を削減できる。一方、マネジャーに求める業務を変えるという道を選択した企業は、マネジャーのマインドセットとスキルセットを、タスク管理から従業員のあらゆる経験の管理へと変えていく必要がある。
マネジャーは部下の特定の業務だけでなく、彼らのキャリアパス、仕事がプライベートに与える影響、そして組織全体との関係性まで幅広く目を配る。このような変化により、従業員数の減少スピードを遅らせられるかもしれない。ただし、そのためにはマネジャーの能力を大幅に高める必要がある。