●マネジャーにニーズを語らせる
マネジャーは、チームメンバーがどのようなスキルを形成すべきかについて、鋭敏に察知している。さらに、研究によると、マネジャーはHR部門やL&Dチームに先んじてトレーニングを始める可能性が高いことが明らかになっている。
企業はマネジャーから直接、研修のニーズや実施の頻度を聞き出すプロセスを確立すべきである。たとえば、定期的にアンケート調査を実施したうえで、厳選されたマネジャーのグループと深い議論を行い、研修イニシアチブの設計に関してフィードバックや指針を提供してもらうこともできる。
デンマークを本拠とするグリーンエネルギーのグローバル企業オーステッドは、このアプローチを採用している。2020年、同社は「パワー・ユア・キャリア」と呼ばれる全従業員向けの研修プログラムを開始した。「目標は従業員の定着率とキャリアモビリティ(社内人材の流動性)の向上でした」と、同社の主任HRコンサルタントのテレーゼ・コルスガード・クリステンセンは説明する。
クリステンセンのチームは効果的なプログラムを設計するために、従業員がキャリアで行き詰まりを感じる原因は何かを知る必要があった。そこで、社内のさまざまな階層のマネジャーと1対1のインデプスインタビューを15回行い、続いて4つのフォーカスグループで座談会形式の調査を行った。
その結果生まれたプログラムでは、従業員の能力開発を妨げる要因だとマネジャーが具体的に指摘した問題の対処法に焦点を当てている。たとえば、より建設的なフィードバックを与える方法や、より効果的に従業員と1対1のミーティングを行う方法などである。「パワー・ユア・チーム」というマネジャー向けの必修プログラムも、ここに含まれる。
「最初の段階で、多くのマネジャーとのインタビューに相当の時間を費やし、これは大変な作業でした。しかし、プログラム終了後の効果検証では、マネジャーをさまざまなポイントで巻き込むことが成功に欠かせないと立証されました。マネジャーと従業員の相互交流の質が著しく改善し、継続的な能力開発により集中できるようになったのです」と、クリステンセンは言う。
●学習目標を設定し、仕組みを整える
マネジャーにとって、ふだんから忙しく、働きすぎる傾向のあるチームメンバーに、何か新しいことを学習するよう勧めるのは簡単ではない。そこで解決策の一つとなるのが、学習のための場所と時間を指定し、チームメンバーに参加を促しやすくすることである。
ノバルティスの最高人材育成責任者(CLO)であるサイモン・ブラウンは、共著書The Curious Advantage(未訳)の中で、「年間100時間の学習時間を提供する」という同社の野心的な目標について説明している。
CEOのヴァサント・ナラシンハンの積極的な後押しもあり、同社では過去3年間の従業員の年間学習時間が、それ以前の3年間と比べ2倍以上に増えた。定量的な目標に加えて、CEOのサポートもあることで、マネジャーは格段にチームメンバーに参加を促しやすくなる。
また、従業員は目標や仕組みが明確であることを好む。筆者の勤務先であるエメリタスの研究では、従業員は概して、研修のコンテンツすべてをいっきに入手し、自分のペースで進めていく学習方法よりも、マイルストーンが明確に設定され、スケジュールに沿ってコンテンツと課題が発表されて、ガイド付きで学習を進めていく方法を好むことが明らかになっている。
このようなガイド付きの学習体験(「コホートベースのコース」と呼ばれることが多い)の主な特徴は、決められたスケジュールに従って、他の参加者と一緒にコースを進めていく点にある。
全体の仕組みが明確で、ともに学ぶコミュニティがあるという感覚は、従業員がコースを最後までやり遂げ、学習した内容を思い出し、自分の職務に適用するのに役立つと、コホートベースの学習プラットフォームであるメイヴンの共同創設者であるウェス・カオは述べている。