デジタル化やアジャイル化、そしてフレキシブルワークへの変化によって従来のマネジメント手法の効果が弱まりつつあります。そこで、『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)2022年5月号では、「リーダーシップの転換点」と題した特集を組みました。部下の管理監督役から成長支援役へ、いまリーダーのあるべき姿が変わりつつあります。
管理監督から成長支援へ
リーダーシップの転換点
この1世紀余り、マネジャーの役割はトップの指示を下に落として、部下の業務を管理監督することが中心でした。しかしながら、特集「リーダーシップの転換点」の論文筆者たちは、工業化時代のピラミッド型組織を前提とした、この古いマネジメントのあり方に疑問を投げかけます。
「マネジャーたちが苦境に立たされている」。
そう指摘するのは、第1論文「リーダーシップの転換点:部下の管理監督から成長支援へ」の筆者である、元IBM最高人事責任者のダイアン・ガーソン氏とロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授です。デジタル化やアジャイル化、フレキシブルワークなどにより、仕事のあり方が劇的に変わる一方で、マネジャーはその変化に対応できていないというのです。
いま求められるリーダーの役割の一つに、部下への共感を示し、そのパフォーマンスを最大限高めるコーチ役があります。これからは、情報化時代におけるフラットで流動性の高い組織を前提とし、部下の成長支援に焦点を当てたリーダーシップの発揮が求められているのです。
2本目の論文は「謙虚で共感力の高いリーダーに変わる方法」です。権力を手にしたリーダーが傲慢になったり、自己中心的に振る舞ったりして、そのリーダーシップの有効性が失われる例は数え切れません。
リーダーは謙虚さと共感力を養うことで、傲慢さと自己注目という2つの落とし穴を避け、効果的に権力を行使できると言います。
3本目の「チームの対立を生産性につなげるコミュニケーションの手法」では、職場で対立する意見を受け止めて深い議論へと導く「受容性」の身につけ方を明かします。
たとえば、「傾聴のトライアングル」を用いれば、自身のバイアスを取り除き相手の見解をよく理解することができます。リーダーが自身の意見をメンバーに受け入れてもらいたいならば、昔ながらの対立的な方法ではなく、知的な謙虚さを示して受容的な言葉を使うべきだとも指摘します。
果たしてこれからの時代、リーダーは偉大なビジョナリーか堅実な実務家か、そのどちらが望ましいのでしょうか。4本目の論文「リーダーシップを問い直す: 逆説的な期待に応える4つのアプローチ」ではPwC Strategy&の最新調査から、そのどちらも重要だと結論付けました。逆説的に見える役割を同時に担うため、経営幹部で成るリーダーシップチームの役割とその理想の形を議論します。
5本目は、資生堂の魚谷雅彦社長CEOへのインタビュー「ピープルファーストの経営が社員の意識を変え、顧客の心を動かす」です。
魚谷氏はコロナ禍を通してよりいっそう、社員(ピープル)を中心とした経営の重要性を実感したと述べます。創業150周年の伝統組織において、株主よりも社員を起点に考え、組織の階層を取り払い、多様な人材を確保していくことがなぜ企業変革につながったのか。その経営の本質に迫ります。
このように、リーダーシップの転換点をとらえた論文を集めました。この春、新しい立場に変わった方も多いはずです。ぜひ新たな役割を見つめ直すヒントになれば幸いです。
(編集長・小島健志)