口だけでなく金を出す

 情熱の追求が仕事に好影響を及ぼすことに気づき、従業員が仕事以外の情熱を追求するよう金銭的に支援する企業が増えている。従業員のモチベーションとコミットメントが高まることを考えれば、この出費は安いものだ。

 たとえば、エデルマンの社員は、自分が推進したい運動への資金助成(最大2500ドル)を会社に申請できる。また、「エデルマン・エスケープ」という制度では、社員が「一生に一度の」体験をするために1週間仕事を休み、1500ドルの給付金を受け取ることができる。

 衣料品メーカーのベータブランドは、「フライアウェイ」というプログラムを設けて、社員がずっと訪れたいと思っていた外国の土地を訪ねるために、資金援助を行っている。祖母が生まれたアイルランドの土地を一目見るために旅してもよいし、恋人を追ってパリに飛んでもいい。

 ソフトウェア会社のフルコンタクトは、「ペイド・ペイド・バケーション」という制度を導入している。有給休暇に加えて、7500ドルを支給する制度だ。この給付金はどのような目的に使ってもよい。ただし、この制度を利用するためには1つだけ条件がある。仕事の連絡を絶ち、仕事と完全に無関係のことをやらなくてはならないのだ。

 社員が仕事以外の情熱を追求することを支援する取り組みとしては、デートアプリ会社ヒンジの例も挙げられる。同社は、社員のデート費用として200ドルを支給している。

 リーダーは従業員の能力開発を促すために、学習支援の給付金を提供してもよい。レディットでは、社員が私的な学習や職業上の学習を行うための講座に関して、その受講料を援助している。学ぶテーマはどのようなものでもよい。

 仕事以外の情熱を追求することが、仕事における創造性とイノベーションを加速させる場合があると考えれば、業務と直接関係のないテーマの学習資金を提供することが組織に恩恵をもたらす可能性がある。

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 働き方の柔軟性は、人生において「不可避な」問題の解決策と位置付けられることが多い。たとえば、保育園に子どもを迎えに行かなくてはならない親が、勤務時間の一部を夕方から夜間に変更したり、オフィスから遠く離れた場所に住まざるをえない人が、リモートワークをすることで長距離通勤を避けたりする手段と見なされてきた。

 それだけでなく、柔軟な働き方をすることは、人生において「望んでいること」を実現する手立てとしても有効だ。従業員がみずからの情熱を追求し、活力に満ちた状態で仕事に臨めるようになる。

 従業員が仕事以外の情熱を追求するための余裕をつくり出し、社会的にも資金的にも彼らの取り組みを支援することで、より魅力的で健全な職場に変わり、従業員を定着させることができるかもしれない。


"To Retain Employees, Support Their Passions Outside Work," HBR.org, March 30, 2022.