会社のポリシーとして、メンタルヘルスの問題を支援する
●サポーティブなポリシーを整備する
スティグマに対抗し、メンタルヘルスの向上を促す強力なポリシーを導入、維持することは、サポーティブな職場環境と文化を育むことにつながる。会社が提供するメンタルヘルス関連の福利厚生について、すべての従業員にしっかりと概要を説明することが欠かせない。
メンタルヘルスに関連するスティグマはどのようなものであっても、他の差別と同様に扱われることを伝えて、マネジャーと従業員が声を上げやすくする。また、何らかのスティグマを支持する同僚がいた場合、相手の行動が意図されたものか否かにかかわらず、上司に報告するよう従業員に促そう。
メンタルヘルスに関するポリシーの中で、メンタルヘルスの問題に対処するベストプラクティスについて、会社が透明性のあるコミットメントを示すこともできる。従業員には、懸念を報告する際に必要なリソースを明確に理解してもらい、実際に利用できるようにしなくてはならない。また、複雑ではない形で匿名性を確保し、苦情やフィードバックを受け付けるプロセスも必要になる。
あなたが経営チームのメンバーならば、メンタルヘルスに関する自社のポリシーを策定したうえで、その方針を現場に導入し実行させるために、メンタルヘルスディレクターといった役職を設けることもできるだろう。精神疾患を持つ従業員を含む、さまざまなステークホルダーから成る職場のメンタルヘルス委員会は、このポリシーの策定、実施、維持を手助けする。
●職場環境を整える
メンタルヘルスの問題を予防し、問題を悪化させるような職場のストレス要因を軽減して、全従業員に利益をもたらす職場環境を整える。アライとリーダーはそのような取り組みをサポートし、会社にも要求していかなければならない。
「障害を持つアメリカ人法」(ADA)に基づき、低コストで簡単に実行できる例としては、勤務開始時間を遅くする(精神疾患の治療薬には鎮静効果があることが多い)、診察を受けるための休憩時間を認めることが挙げられる。
また、周囲の音を気にせず作業に集中できるスペースを設置したり、フレックスタイムやリモートワークを導入したり、パートタイム勤務の選択肢を提供したりすることもできる。あるいは、精神障害をサポートする犬(感情支援動物)をオフィスで飼うこともできるだろう。
すべての従業員に対して、それぞれのチームにどのような配慮が必要かを議論し、どうやって取り入れるのが最善かを話し合うよう促すことだ。
マネジャーは、支援が必要な従業員に対して、このような環境を積極的に提供する方法を検討しなければならない。従業員には、これらのサポートを利用しても非難されないこと、そして精神疾患を打ち明けても秘密が厳守されることを保証する。病気に関して「記録は残さない」と伝えるだけで、従業員は安心できる。
精神疾患を抱える従業員は、法律の下で合理的配慮を受ける権利があるが、その恩恵を受けるためには、自分の症状について情報開示しなければならない。マネジャーは、情報開示のリスクはメリットをはるかに上回ると多くに人が考えていると、心に留めておく必要がある。
●ケアへのアクセスを向上させる
身体の健康と精神の健康を調和させる包括的パッケージをはじめ、メンタルヘルスに関する優れたケアを利用できるようにする。これには、幅広いメンタルヘルスサービスや投薬治療の保障も含まれる。
短期および長期の病気休暇制度を手厚くし、具体的な期間と延長の可能性を明確に規定する。具体的な症状の情報開示を、休暇制度利用の条件にすべきではない。
必要な時に、いつでもアクセスできるセラピーによる支援も有効だ(メンタルヘルスの危機は、職場の外で起きることが多い)。一般的なウェルネスプログラムも、すべての従業員が利用できるようにして、メンタルヘルスにポジティブな影響を与える。説明会や会社のコミュニケーションチャネルを通じて、従業員にこれらのメリットを認識させよう。
最後に、守秘義務を伴い、仲間同士がサポートし合うオンラインコミュニティも有用だ。
多くの企業が、従業員をサポートするためにメンタルヘルスアプリを利用しているが、その効果に疑問が残るものもある。米国精神医学会(APA)によれば、多くのアプリは有効性が証明されていない。さらに、安全性が乏しく、プライバシー管理が不十分で、適切な情報開示やユーザーの承認なしにデータが販売されるおそれもある。
APAでは関連リスクを評価し、メンタルヘルスアプリを格付けする評価モデルを開発している。事業主はメンタルヘルスアプリの利用を従業員に推奨する前に、このようなリスクと実際の有効性を慎重に見極めなければならない。
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メンタルヘルスの問題を抱えている従業員も、深刻さの程度とは無関係に、職場で成功し、貴重なチームメンバーとして活躍することができる。この時、アライは、彼らが重要な問題を克服するために必要な、共感と思いやりを提供するという重要な役割を果たす。
私たちの総意と共感と思いやりがあれば、スティグマという手強い壁を打ち砕くことはできる。職場のメンタルヘルスの取り組みも、その助けになるだろう。結局のところ、最も重要なのは、私たちが共有する人間性を職場に持ち込むことだ。





