適切なESG戦略を推奨する
「AIレコメンド機能」も開発中
――企業は「AIP EVC」をどのように活用できるのか、具体例を教えてください。
保科 ある企業が中期経営計画において、5年間で時価総額を3兆円から6兆円に増やす目標を掲げたとしましょう。
「AIP EVC」の企業価値シミュレータでは、ダッシュボード上にその企業の時価総額の年次推移が折れ線グラフで表示されます。たとえば、その企業が財務改革によって時価総額を5兆円まで高めるという計画を策定しているとしたら、財務施策で時価総額がどう変化するかをシミュレーションし、計画の妥当性を検証します。
そのうえで、目標の6兆円とのギャップをESG施策でどう埋めるかを考えます。女性役員比率や女性管理職比率の目標を設定し、それを入力すると時価総額の変化がダッシュボード上に示されます。さらに、同業他社と比較して不十分なESG施策があれば、その目標値も入力していくといった流れで、ESG戦略を決定していきます。

「AI Powered Enterprise Value Cockpit」のダッシュボード画面の例
このようにデータに基づくシミュレーションを行っておけば、中計の目標設定や実行計画の妥当性について投資家に対して説得力を持って説明できますので、ステークホルダーとのより建設的なコミュニケーションにつながります。
ESG戦略を組織全体、あるいは事業部門ごとにどう落とし込み、実行していくかという段階では、ESG経営や業界ごとの専門知識が豊富な当社のコンサルティングチームがサポートします。
財務施策、ESG施策と企業価値との因果関係を可視化するだけでなく、シミュレーションによって具体的な戦略立案までを支援するのが「AIP EVC」の特徴ですが、その戦略を実行できてこそ企業価値向上に結び付きます。実行までのエンド・トゥ・エンドを“ワン・アクセンチュア”で支援できるのが、当社の強みと言っていいと思います。
――すでにKDDIが「AIP EVC」の導入を決定しているそうですが、その他の企業からの反響はいかがですか。
保科 当社が主催するCEOやCSO(最高戦略責任者)などを対象としたワークショップでも、「AIP EVC」を何度かご紹介しましたが、関心の高さを実感しています。
ある経営者の方からは、「これがあれば、同じ条件で同業他社と比較し、投資家との対話にも活用できる。ぜひ『AIP EVC』をデファクトスタンダードに育て上げてほしい」と言われました。そうできるように、これからも「AIP EVC」を進化させていきます。
――具体的には、「AIP EVC」をどのように進化させていくお考えですか。
保科 現在、デフォルトでインプットしているのは日経225構成銘柄の財務・非財務データですが、今後さらにデータを拡充し、AIの機能も強化していく予定です。
より精度の高いシミュレーションを実現するため、海外のデータを取り込むことや、有価証券報告書の記載内容のうち、自然言語で記述された定性的な情報もAIエンジンに取り込むことなどを目指しています。
現時点では、目標の時価総額に到達させるための戦略推奨まではできていませんが、経営者の設定した目標から逆算して適切なESG戦略を推奨する「AIレコメンド機能」を実装する予定です。プランAの場合は目標到達の確率が90%、プランBなら80%といったように複数のシナリオを推奨できるようにすることを想定しています。
企業にとっては、製品・サービス単位でのESG施策も重要ですので、たとえば、製品ごとのサプライチェーン全体で環境負荷を可視化し、改善のアクションを提示するといった機能拡張も検討しています。
また、アクセンチュアは企業価値を全方位で高めていく経営を「360°Value」と呼んでおり、財務価値、顧客の体験価値、従業員の人材価値、組織のインクルージョン&ダイバーシティ(包摂と多様性)などを全方位で高め、企業価値向上にドライブをかける経営の実践にクライアント企業とともに取り組んでいます。
この「360°Value」の考えに基づいて、ESG以外の評価要素も「AIP EVC」に取り込んでいく予定です。具体的には、事業ポートフォリオやR&Dポートフォリオの変化が企業価値にどう影響するのかをシミュレーションできるようにする方針です。
さらには、KPIをシミュレーションすることで経営の意思決定を支援する「AI Poweredマネジメントコックピット」や業務系のAIソリューションなど、既存のAI Poweredサービス群と「AIP EVC」を連携させながら、クライアントの企業価値最大化に取り組んでいきたいと思います。