わかりやすいパワー集団以外にも目を向ける

 初めて社内を見渡した時、肩書きに「チーフ」や「シニア」が付く人がパワーダイナミクスを支配していると思うのは自然なことだ。だが現実は、必ずしもその通りではない。

 筆者はかつて、大病院のエグゼクティブチームと仕事をしたことがある。その病院は、ほかではできないような難しい手術をする医師たちを抱え、世界中から患者が訪れていた。組織で大きなパワーを行使するのは、この医師たちのように思えるかもしれない。

 ところが、実際に誰が手綱を握っているのかと幹部に尋ねると、それは看護師だという。優秀な看護師こそが、医師の仕事を背後で支える原動力と見なされていたのだ。もし新入りのあなたが、医師とエグゼクティブこそ最も重要だと思い込んで、看護師の組織と連携することを怠ってしまったならば、成功への過程で大きなミスを犯したことになる。

 また、組織の部署間にある空白地帯に注目することも大切だ。そこには往々にして隠れたパワーが存在するからである。企業が顧客主導の傾向を強めるにつれて、仕事は単に縦割りの部門を通してではなく、部門横断的に遂行されるようになっている。その結果として、部門間の空白を埋めるネットワークの構築に成功した人が、しばしば大きな影響力を持つのである。

 筆者がそれを間近で見たのは、数十億ドル規模の製品ラインを管理するバイスプレジデントとして採用されたクライアントのケースである。当初、彼は自分の成功に最も影響力があるのは、自分の上司、上司の上司であるCEO、そして彼の事業の最大の顧客と接する販売部門のリーダーだと思っていた。

 ところが時間が経つにつれ、顧客とまったく顔を合わせないが、顧客のニーズを満たすのに絶対に必要な、社内の主要スタッフにパワーがあることに気づいた。たとえばサプライチェーンや技術部門、その他のシェアードサービスのリーダーである。彼らは電話1本で、バイスプレジデントが担当する製品ラインのニーズをほかより優先させることもできれば、後回しにすることもできるのだった。

好奇心と寛大さを通して、パワーのある人々との関係を増やしていく

 社内のパワーダイナミクスを把握できたら、影響力のある人々の目にとまるために動き出そう。しかし、同様に動こうとする多くのライバルとは一線を画す必要がある。パワーを持つ人々に喜んで時間を割いてもらう最もよい方法は、ぜひとも彼らから学びたいという謙虚さと、自己中心的な下心なしに、価値あるものを提供したいという熱意を示すことだ。

 そして、実際に会えた時は、あまり欲張らないほうがよい。あなたからの電話なら喜んで出ようと思ってもらえるくらいに、あなたの好奇心と寛大さを示せれば十分だ。

 ある程度の時を経たら、あなたが次に会うべき人は誰だと思うか、尋ねてみるとよい。パワーを持つ仲間に、あなたを好意的に紹介してくれるかもしれない。

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 新しい組織に加わる時は、誰がパワーを握っているかを把握することが大切である。仕事の遂行に直接的に影響するからだ。ただし、それは必ずしもはっきりと目に見えるものではない。本稿に挙げた戦略を活かして、真のパワーがどこにあるかを見極め、やがては社内で影響力を持つ地位を築いていただきたい。


"How to Figure Out the Power Dynamics in a New Job," HBR.org, August 29, 2022.