(1)候補者のランクに関する基準を定める

 採用は、面接官にとっても候補者にとっても、負担の大きいものだ。人は負担を強いられると、自分にとって身近なものを支持する傾向がある。しかし、戦略的なアプローチがあれば、採用プロセスに秩序をもたらすことができる。

 意思決定に関する研究によれば、採用するポストに求められる資質の優先順位について、確固たる基準を定めて、事前にリスト化しておくことが、賢明な選択を行うカギになる。

 採用委員会では、たとえば技術的スキルとビジネス感覚の両方にまたがる5~10個の資質を重視することに合意したうえで、その重要度にしたがってそれぞれの資質をランク付けをする。

 面接中は、それぞれの資質と候補者を独立した評価対象とし、どの評価についても事前の判断に左右されないようにする。面接後、面接官は「高、中、低」の評価をつける。たとえば、コミュニケーション担当マネジャーの採用では、ライティングと協調性が最も必要な2つのスキルとされるが、ウェブデザイン担当の採用ならばこれらは5番目か6番目に重要なスキルとなるだろう。ここでは、それぞれの資質について、どのような評価が下されたかを明確にすることだ。

 候補者を相対的に評価する際には、より重要な資質に関してスコアが高い候補者を、優先順位の低い資質で高いスコアがついた候補者よりも上位に置く。そうすることで、採用候補者の中で、当該の職務に必要な最重要スキルを示したのは誰かが明らかになる。

 この方法を採用する際、評価者はそれぞれの領域について個別に判断を下し、他の資質とは切り分けて採点しなくてはならない。たとえば、その職務にとって本当に欠かせない要素なのかどうかわからないのに、1つないしは2つの項目が非常に高評価だったことから「全体として好印象だ」と判断を下すようなやり方とは、正反対である。

 候補者の資質に関して、明確かつ簡潔なリストを作成することで、意思決定者に注目すべき視点を与える。そうすることで、人種やジェンダー、社会経済的なバックグラウンドから切り離して判断できるようになる。この戦略は、さまざまな選択肢を用意する必要があり、幅広い採用ポストに応用できる。

(2)あえて反対意見を支持して、議論を進める

 最初に面接を受けた人が、最初に採用される。これは、筆者が仕事で気づいたパターンであり、多くの人が知っている通りだ。

 研究結果からも明らかなように、人は先に提示された選択肢を好み、後から矛盾した証拠が提示されても、それを過小評価する傾向がある。つまり、最初に判断を下すと、その判断の裏づけにならないデータが新たに出てきても、それを無視したり、軽視したりする可能性が高まるということだ。

 筆者が協働した世界的なプロフェッショナルサービスファームのHR担当者は、新規採用者の89%が、最初に面接を受けた人であることに気づいた。採用委員会では、このようなバイアスに対処したいと考え、意思決定者に「反対を考えさせる」 戦略を適用した。

 具体的には、支持を集めた候補者について「選択肢として間違っているかもしれない」と仮定し、その理由を考えるように求めた。同様に、上位にランクされていない候補者についても「適切な候補者だ」と仮定したうえで、議論を進めるように求めたのだ。

 意思決定者は、必要な反論をまとめるために、当初は軽視していたデータに立ち戻って、それらを参照し直すことになる。最終的には、より多くの情報に基づいて客観的な判断を下すことができるだろう。