(5)計画遂行を促すプロンプトを利用する
行動計画を具体的かつ明確に定めておかなければ、やるべきことを忘れたり、先延ばしにしたりして、計画達成までに脱線しかねない。
これらの落とし穴を意思決定者が回避できるように、計画遂行を促すプロンプト(動作をするように促すもの)が利用されてきた。そのような手法は実際、エクササイズやインフルエンザの予防接種、締切順守といった重要な成果を出すことに成功している。それぞれがいつ、どこで、どのように意図した行動を取るか決めるように促すことで、行動計画が記憶に残ると同時に各自のコミットメントとなる。自分でやると決めた約束は、心理的にも破りにくい。
米南西部のあるエンジニアリングコンサルタント企業が、女性とエスニックマイノリティの採用を増やすことに苦労していた時、HR担当者があるパターンに気づいた。女性とマイノリティの候補者が提出する応募書類に、必要な書類が欠けていることが多かったのだ。面接官は候補者に連絡を取り、足りない情報を求めることになっていたが、その業務はきちんと行われていなかった。
そこで、この会社ではデジタルチェックリストを導入し、スタッフがそれぞれのフォローアップ業務をリスト化して、評価者全員が閲覧できるようにした。候補者の名前と画像、フォローアップのアクション、担当責任者などが記されたリストは、面接の1週間前に関係者に配付され、それぞれの担当者が自分のタスクに署名して承認する仕組みだ。
IT部門ではシステムを構築する際に、候補者と面接したすべてのスタッフ、HR部門、候補者の直属の上司となるエグゼクティブをCCに入れて、各自にリマインダーが送信されるように設定していた。そうすることで、誰がフォローアップをしたのか、誰がまだフォローアップしていないのか、関係者全員が把握できる。
このシステムを導入したことによって、フォローアップが100%実施されるようになり、同社では採用する女性とマイノリティの数を増やすことができた。
(6)メッセージを有効な形式で届ける
正しい情報だけでは、必ずしも十分ではない。情報は、説得力のある形式で届けなければならないのだ。コミュニケーション担当者は、意思決定の行動を導き、人々の意欲を刺激するために、利益になるメッセージと損害になるメッセージの枠組みを決めることができる。
プロスペクト理論では、意思決定に対するフレーミングの微妙な影響に着目する。たとえば、健康関連のコミュニケーションにおいて、損害のフレーミングをされたメッセージは利益のフレーミングをされたものに比べて、行動を促すきっかけとして機能しやすい。とりわけ、特定の問題と強い関連性がある場合はそうだ。
たとえば、「定期的なスクリーニング検査を受けなければ、ガンで死亡する可能性が高まる」という損害のフレーミングは、「定期的なスクリーニング検査は、ガンを克服する可能性を高める」という利益のフレーミングより効果的であることがわかっている。
あるグローバルな製薬会社では、採用面接に備える応募者のために、メッセージのフレーミングを行った。まず、採用プロセスで応募者と従業員を2人1組にするという選択肢を用意し、その選択をした場合に15の利益が考えらえると強調した。そこには「重要な内部情報を得られる」「すでに会社で働いている人の中で、自分と似たような人とつながることができる」「コーポレートキャンパスを見学できる」「模擬面接に複数回参加できる」といった項目が含まれていた。
残念ながら、これらの利益を提示しても、従業員とのペアリングを希望した応募者は14%未満だった。そこで、同社は方針を変えて、「面接で避けたい7つの大失敗」というタイトルでペアリングの選択肢を提示した。すると、希望者は72%に急増し、なかでも女性とマイノリティで割合が高かった。
説得力のあるメッセージは、行動のきっかけになりうるかどうかがカギになる。メッセージをリフレーミングすることで、より幅広い受け手が反応できるようになるのだ。この製薬会社では、ペアリングを選択する応募者が増えたことによって、面接に向けて準備が整った応募者が増えた。
結論
今日の人材市場では、採用や昇進について最善の決定を下すための新たな方法を、誰もが模索している。本稿で紹介した介入措置は適応性が高く、優れたディシジョンインテリジェンスを醸成できる、実証されたベストプラクティスに基づくものだ。
リーダーは自分の判断によって得られるものにより多くの注意を払うべきである。そして、なぜそれらを得ようとしているのかをデータに基づいて判断し、デフォルトとなっている思考を変えるような介入を実施しなければならない。そうすることで初めて、必要な人材を採用して、その能力を開発し、定着させることができる。
"6 Behavioral Nudges to Reduce Bias in Hiring and Promotions" HBR.org, November 02, 2022.