夏:公平性を求めて戦う

 夏には「静かな退職」(クワイエット・クイッティング)がティックトックのトレンドになった。ウェルビーイングと透明性を優先し、組織の足かせになっている制度的不公平に、協調的かつ繊細なアプローチで対処するような職場を求める戦いに、新たな関心が集まったのだ。

「『静かな退職』は正式な退職よりも大きな問題である」はこの1年で最も読まれた記事の一つだ。行動志向の記事で、マネジャーに対し、このトレンドの概要と根本的な原因、そして研究に裏付けられた戦術的な取り組みを説明している。「組織市民(シティズンシップ)行動」という心理学の概念を通して、職場が公平性とウェルビーイングを優先しないと、従業員が、職務を超えた活動をする余裕がなくなると指摘している。特定の役割や状況では必ずしも問題になるとは限らないが、対処しなければ働く人々の熱意が次第に低下することは、雇用主と従業員の双方にとって問題になる。

 従業員の不満を高める根本的な要因に取り組むことは、言うまでもなく簡単ではない。たとえば、「給与の透明化がもたらすデメリット」が指摘するように、給与に関する情報を従業員に公開し、雇用主に対して給与の公平性を求める圧力が高まっている一方で、多くの組織がその実施につまずいている。英国、米国、中国の企業を対象にした調査から、給与の幅が狭まることや、自分が正当だと思う報酬を別の形で受け取るための交渉が個別化するなど、意図しない結果をもたらすことが明らかになった。

 やはり夏に注目された“We Can’t Fight Climate Change Without Fighting for Gender Equity”(未訳)は、公平性を実現する戦いを取り巻く複雑な状況を浮き彫りにした。ジェンダーの平等と環境の持続可能性は、一見関係がない問題に思えるが、記事はさまざまな研究をもとに、実は密接に絡み合っていることを明らかにしている。筆者らによると、女性や十分なサービスを受けていないグループは、気候変動の影響を多く受けており、それと戦わなければならない立場にいる。そして、リーダーがあらゆる形で公平性と持続可能性を追求するために、個別の問題としてではなく、インターセクショナルなアプローチを取る戦略を提案している。

秋:自分の直観を信じる

 秋に人気のあった記事はいずれも、自分の直観を信じ、自分らしさを受け入れて、本当の意味で自分を表現しようと、何らかの形で読者を勇気付けるものだった。「内向的な人に外向的になれと言うのはやめよう」は、内向的な人が出世するためには、より外向的に振る舞わなければならないという常識に対する素晴らしい反証を示している。

 筆者らの研究と多くの先行研究から得られた知見はすべて、生まれ付き内向的な人にとって外向的な仮面をかぶることはひどく疲れるものであり、結局は報われないと示唆している。したがって、内向的な人も外向的な人も、常に外向的であることが最善であると考えるのではなく、自分にとって活気を感じる行動や疲弊する行動を振り返り、自分にとって最適な方法で社交的なエネルギーの水準を管理するために積極的な措置を取ることが重要だ。

 “Are You Being Quiet Fired?”(未訳)という問いかけも、秋の読者の関心が高かった。この記事は米国の1000人以上の労働者を対象とした調査から得られた知見をもとに、雇用主があなたに退職を「すすめている」警告サインを見抜く方法と、どのように対処するかを考察している。さらに、雇用主があなたの責任、報酬、労働条件、コミュニケーションについて、取るであろうさまざまな変化を説明し、職場で追い詰められていると感じている従業員に役立つ検証や助言を提供している。

 しかし、オーセンティシティにはさまざまな形や大きさがある。私たちは人間関係において本当の自分を表現することを重視する(そして、雇用主が私たちにどのように接するかというところに相手の誠実さと信頼を見る)かもしれないが、「シンプルで読みやすい財務情報の開示が企業に利益をもたらす」は、オーセンティックであることはほんの小さな行動でも意識できることを思い出させてくれる。小説を書いている時も、スラックでメッセージを送る時も、過度な装飾や専門用語を使わずに、自分の言いたいことを言うのが最善だ。

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 新年や新年度は、野心的な目標を設定するのに最適な時期だ。しかし、大きな計画を用意するだけでなく、そこに柔軟性を持たせることを恐れてはならない。この先もさまざまな未知の障害や機会に遭遇する可能性がある。したがって、目標を設定して終わりではなく、必ず生じる新しい課題や、新たに提示される研究や証拠、あなた自身の優先順位の変化に、柔軟に対応できる余裕を持とう。決意表明が許される日は、新年最初の日だけではない。


"HBR's Most-Read Research Articles of 2022," HBR.org, December 27, 2022.