2022年にHBRで最も読まれた記事とは何か
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サマリー:米国『ハーバード・ビジネス・レビュー』で2022年に多く読まれた記事は何だったのか。個人も企業も、真に信頼できること、誠実であることといった、当たり前のことをいかに体現していくかが問われた1年だったようで... もっと見るある。早くも2023年に入り1カ月が経過した。この1年を見通すためのヒントを本稿から感じ取ることができるだろう。 閉じる

2022年の進歩を振り返る

 2023年を迎えるにあたり、多くの人は心が奮い立つのと同じくらい気後れすることだろう。新しいスタートへの期待は喜ばしいものだが、同時に、2022年に直面したあらゆる課題や、まだ克服していない問題が待ち受けていることを思い知らされるからだ。

 新たな抱負を考える時、実は、これまでに達成したことについて振り返ることが効果的だ。私たちは2022年、自分のアイデンティティや優先順位の変化を乗り越えてきた。そして、私たちを取り巻く世界の根深い不公平と戦うなど、数え切れない壁に直面した。

 HBRは、個人として、マネジャーとして、リーダーとして、最も差し迫った問題に対処するための洞察と戦略を提供するような、研究に裏付けられた記事を2022年も数多く掲載してきた。今回は2022年の1年間に最も読者の共感を得たテーマをあらためて振り返る。

冬:自分らしい自分になる

 2022年の1月から3月、特に多く読まれた記事は、最も好ましい自分を見つけるために必要なことに注目していた。「人生の劇的な変化でアイデンティティを見失った時、あなたはどう対処すべきか」は、転職や新しい国への移住、さらには地域コミュニティに溶け込もうと努力する元受刑囚など、ポジティブな変化もネガティブな変化も含めて、人生における劇的な出来事に対し、人々がどのように対処するかについて、過去10年の研究から得た洞察を紹介している。そして、私たちがアイデンティティの麻痺──自分のアイデンティティが新しい現実に追いつこうと苦労して行き詰まる感覚──に、いかに陥りやすいかを説明し、過去に囚われず、新しいアイデンティティを歓迎して、成長の道を進むための5つの戦略を提案している。

「ソーシャルメディアの『スクロール中毒』を抜け出す方法」は、日常的な悩みだが、誰もが(特に暗くて憂鬱な冬の間は)苦労している問題を探究した記事だ。なぜ私たちは、本来の目的から外れてソーシャルメディアで時間を無駄に費やしてしまうのか。そこから抜け出して本当にやりたいタスクに再び集中するためにはどうすればよいか、一連の研究がヒントを与えている。

 そして「チームの多様性を成果につなげるには心理的安全性が必要だ」は、誰もがポテンシャルを発揮できる環境を育むことはチームリーダーと組織の責任であると、あらためて強調している。筆者らは大手製薬企業6社の、62の医薬品開発チームを対象に調査を実施した。多様性が高いチームは特に、心理的安全性を高めることがメンバーのパフォーマンスとウェルビーイングの両方にとって重要であることがわかった。

春:近視眼的なリーダーシップを断ち切る

 2022年4月から6月にかけて特によく読まれた記事は、リーダーが陥りがちな落とし穴と、それを回避するためにできることについて論じていた。「ダイバーシティを安易にビジネスと結びつけてはいけない」は、頻繁に言及される多様性の「ビジネス面」を(あらためて)批判しており、多様性が企業の利益につながるという理由でDEI(ダイバーシティ〈多様性〉、エクイティ〈公平性〉、インクルージョン〈包摂〉)への取り組みを正当化するような企業では、リプレゼンテーション(ある集団にジェンダーや人種などの代表が存在することやその割合)が低い集団の求職者はあまり働きたがらないという最近の調査結果を挙げている。

 記事はフォーチュン500のテキストの分析と、LGBTQ+(性的少数者)のプロフェッショナル、STEM(科学、技術、工学、数学)分野の女性、米国の黒人大学生などの求職者2500人以上を対象とした研究を紹介した。組織がダイバーシティへのコミットメントを正当化する必要がある場合、道徳的な根拠に基づかなければならない。しかし、DEIの目標に向けて最大限の前進をするためには、そもそも取り組む理由を説明しなくてよいと指摘している。イノベーションやレジリエンス、インテグリティといった価値観を信じる理由を説明する必要がないと感じているのに、なぜ企業はダイバーシティを同じように扱わないのだろうか。

 正しいことをするのはそれが正しいことだからだ、というのは直観的であり、自明の理にも思える。とはいえ、多くのリーダーが昔もいまもなかなか実践できずにいることは、直観的な取り組みばかりではない。「リーダーとして感謝を伝えることの効果を過小評価していないか」の筆者らは一連の研究を行い、権限が大きい人ほど、感謝を伝える機会が少ないことを明らかにした。その結果、権限が大きな人は他人から受けた好意や利益を自分の当然の権利だと感じる傾向があり、そのために、権限の小さな人なら感謝する状況でも、感謝の気持ちを表現しないことが多く、結果として人間関係を悪化させ、リーダーとしての能力が損なわれる。

 やはり多くの読者の共感を呼んだ“Monitoring Employees Makes More Likely to Break Rules”(未訳)は、従業員の行動を追跡するという一般的な管理手法が、いかに裏目に出やすいかを論じている。多くの企業は従業員が規則を破らないように、デスクトップのモニタリング、監視カメラ、さらには生体情報モニターなどのツールに投資しているが、筆者らの研究によると、これらのテクノロジーは実際に職場での有害な行動を助長する可能性がある。たとえば、自分が監視されていることに気づいた従業員は、試験でカンニングをしたり、備品を盗んだり、わざと仕事のペースを遅くしたりする傾向がある。監視されていると、潜在意識で自分の行動にあまり責任を感じなくなるのだ。