移行期の不整合に対処する
戦略的変革を実行するのが極めて難しいのは、痛みを伴う「不整合」の期間を経なければならないためだ。この期間、企業は既存事業が低迷する一方、新たな目標を達成できる体制もまだ整っていない。
大半のCEOは、ここでつまずく。短期的な痛みを和らげようとして長期的に必要なものを犠牲にしてしまうため、不整合の期間を長引かせ、移行期間がだらだらと続いてしまうのだ。
その点、ジョブズは素晴らしい手本となる。1997年にアップルに復帰した彼は、同社の戦略を「使い勝手がシンプルで、見た目が魅力的な製品」へとシフトさせた。この戦略が最終的にもたらした成功は、ビジネス界の伝説となっている。
ただし、その真骨頂は、旧来の戦略から新たな戦略への移行を推し進め、それを成功させたジョブズの手腕にあった。
ジョブズが1985年にアップルを去った後、同社は差別化できない「グレーの箱」を売って価格で勝負する戦略にとらわれており、彼が復帰した当時も、会社はその目標に向かっていた。グレーの箱からキャンディカラーのiMacへの移行を実現するには、短期的な不整合による痛みの期間に耐えることが不可欠だった。
ジョブズにとって、それは財務状況の悪化に対する批判に向き合い、従業員を半分近くに減らし、取締役会のメンバー全員を失うことを意味した。そのような状況を乗り切るには特別なタイプの経営者が必要で、冷徹で独裁的だと思われる人物のほうがより適任だったかもしれない。だが、ジョブズは辛抱強く取り組み、破綻寸前だったアップルを変革し、今日のような世界的成功へと導いた。
マスクによるツイッター改革の第一陣も似たような痛みを生じさせ、似たような批判を巻き起こしている。問題は、同社が長期戦略を完全に実行に移せるタイミングまで、この短期的な痛みに耐えられるかどうかだ。その時期を乗り切るために、経営陣は3つの分野、すなわちプロダクト、組織、ステークホルダーに関して、厳しい決断を下す必要がある。