
戦略的方向性の変更は70%失敗する
2022年10月、イーロン・マスクは440億ドルでツイッターの買収を完了し、11月に同社は上場廃止となった。そこからの数週間は、まさに波乱の日々だった。
レイオフと退職によって、従業員の数はおよそ半減した。同社のサービスで、オプトイン方式の有料制サブスクリプション「ツイッターブルー」に大幅な変更が加えられたが、すぐに撤回され、マスクは同社の未来像について、新ビジョンの概略を打ち出し始めた。そのうえ、凍結されていたアカウントが多数復活し、広告は大幅に減り、ツイッターの崩壊が近いと予感したユーザーは代替サービスを探している。
筆者らが買収完了前に執筆した論考で指摘したように、ツイッターのようなテクノロジー分野のレガシー企業が路線変更するには、大きな障壁が付きまとう。戦略とリーダーシップをめぐるマスクの風変わりなアプローチも、今後の展開においては不確定要素でしかない。
ツイッターを待ち受ける障壁は、マスク自身が率いる他の多くの企業で追求しているムーンショット型プロジェクトとは異なる種類の障壁だ。成功するか失敗するかは、マスクがツイッターの戦略を変更し、同社を彼の経営手腕が活かされるタイプの企業に変貌させられるかどうかにかかっている。
既存企業における戦略的方向性の変更は、経営上最も困難な課題の一つだ。マッキンゼー・アンド・カンパニーの試算では、70%という高い確率で失敗する。マスクによる買収から1カ月間の激動は、ツイッターに迫る波乱の始まりにすぎない。マスクは新たな戦略を示し、それを軸に同社を再構築する必要があるが、それは容易な作業ではない。
もっとも、この手の変革には前例がある。1997年にアップルに復帰したスティーブ・ジョブズが、同社の歴史的再建を成し遂げた事例である。
マスクのツイッター買収と同様、ジョブズのアップル再建も多くの点で激震と痛みを伴い、短期的には物議を醸すものだった。戦略的変革を検討している経営陣にとって、そしておそらくはマスク自身にとっても、ジョブズの判断は道標となるかもしれない。
ただし、ツイッターの再建とアップルの再建には重要な点が異なっており、ツイッターの今後の生き残りには赤信号が灯っている。