企業には別の選択肢もあることがコロナ禍で証明された
コロナ禍の初期には、大量解雇を発表する企業もあったが、猫も杓子もというわけではなかった。セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフは、90日間「大幅な」人員削減を行わないことを約束し、他の企業にも同じことを約束するよう求めた。
スターバックス、バンク・オブ・アメリカ、モルガン・スタンレーなど多くの企業が、業績上の問題がない限り、2020年末までは雇用を維持すると社員に確約した。他のCEOも、労働者の不安を解消するため、同様に一時的なレイオフの停止を約束した。
これらの企業は、幹部の減俸をする、従業員を解雇する代わりに無給の休職命令を出す、時には特定の幹部の基本給を完全にカットするなど、別のアプローチを発表した。また、経済的に苦しい従業員に補助金を支給したり、育児や介護の負担軽減のために有給休暇を追加で付与したりするCEOもいた。
CEOは、こうした行動を通して、従業員を大切に思っていることを伝えた。しかし、記録的な企業利益の達成や自社株買いにもかかわらず、2020年後半に多くのCEOが人員削減に踏み切ると、それまでの表明は偽善だったのかと非難されることとなった。
レイオフに関して変わっていないこと
調査によると、レイオフが個人と企業に対して、長期的に悪影響を及ぼしていることに変わりはない。
レイオフは信頼を崩壊させる
信頼度調査「エデルマン 2022 トラストバロメーター」では、回答者の85%が職を失うことを最大の懸念としている。レイオフによって、従業員の努力と報酬との結び付きが断ち切られるため、従業員と会社の信頼関係は壊れてしまう。レイオフには、会社が直面している厳しい経済状況がなければ、従業員に「よい仕事をすれば仕事が保証される」という前提があるはずなのだ。
ほとんどの場合、
レイオフは、人々の健康と家計に長期的な影響を及ぼす
ある調査によれば、レイオフは「最もストレスのかかる人生経験」の7位にランクされ、離婚、突然の聴覚や視覚の深刻な障害、親しい友人の死よりも上位に入っている。失業の心理的トラウマから立ち直るには、平均で2年かかると専門家はいう。
持病のない健康な従業員の場合、レイオフ後の1年3カ月~1年半の間に体調が変化する確率は83%上昇するという。最も多いのは、高血圧、心臓病、関節炎などのストレス性疾患だ。解雇されることによる心理的・経済的プレッシャーは、自殺のリスクを1.3倍から3倍高めるといわれている。解雇された労働者は、うつ病を発症するリスクが2倍、薬物乱用のリスクが4倍、パートナーや子どもへの虐待を含む暴力行為を犯すリスクが6倍になる。レイオフによって引き起こされるストレスは、胎児の発育を損なうことさえある。
解雇された労働者は、全体として収入が減り、それが残りのキャリアを通して続く場合もある。1981年の不況時に職を失った労働者は、解雇時に収入が30%減少した。20年後も、ほとんどの労働者の収入は、解雇されなかった労働者よりも20%少なかった。これは、失業、労働者の能力を十分に活用していない不完全雇用、技能に見合った仕事を見つけられないことが積み重なった影響だ。