レイオフは企業に悪影響を与えるが、その測定は困難である

 1990年以降、研究者たちは、レイオフが企業の業績に与える影響を調査し、計画された改善が実現したかどうかを調べてきた。しかし、その結果は、期待するほど明快なものではなかった。

 20年にわたる収益性の研究でも、どっちつかずの結果しか得られていない。レイオフを実施した企業の大半は、総資産利益率、自己資本利益率、売上高利益率のいずれを測定しても、収益性の改善が見られない。

 レイオフは、R&Dへの依存度が高く、資本集約度が低く、高成長の企業の業績に対し、特に大きな影響を与える。レイオフに対する市場の反応も予想以上にポジティブではなく、レイオフを実施した企業の3日間の株価は、おおむねニュートラルだった。財政難に陥った企業の収益回復を助けると目されたレイオフや、将来を見据えた戦略的なレイオフの評価は比較的高かったが、コスト削減のみを目的としたレイオフは、株価の下落につながる傾向があった。
 
 別の研究では、異なる経済状況下で行われたレイオフの交絡(要因と結果の両方に影響を及ぼすもの)による影響を最小化するために、景気の良かった2003年から2007年のフォーチュン1000に焦点を当てている。

 それ以前の長期的な変化を扱った研究と同じ方法を用いた結果、レイオフは一般的に、すぐには財務改善につながらないことがわかった。レイオフを実施した企業の場合、最初の2年間は、レイオフを実施しなかった企業の業績を下回り、3年目に総資産利益率、売上高利益率、企業成長率の指標で同等のパフォーマンスを達成した。筆者らは、「ダウンサイジングした企業が競合他社を凌駕する競争力を得るには、おそらくさらに長い時間がかかるだろう」と結論づけている。

 レイオフには、退職金や団体健康保険の継続加入などの直接的なコストがかかり、それが多額のリストラ費用につながり、期待された利益率の改善を食い潰すことにもなる。試しに、1万1000人のメタ社員の給与4カ月分、いや、勤続1年ごとに1週間分の退職金が追加されるため、5カ月分として計算してみよう。さらに健康保険を6カ月分延長する費用を加えると、数字がどんどん膨らむのがおわかりだろう。

 しかし、この初年のコストだけでは、解雇を行った企業の業績が、行わなかった企業より3年近くも低迷する理由の説明にはならない。本当の理由は、レイオフの隠れたコストにあることが詳細な調査でわかっている。レイオフを免れた従業員は、心配や不安感、士気の低下、悲しみ、サバイバーズギルト(生存者の罪悪感)などに悩まされ、それがエンゲージメントの低下につながり、仕事のパフォーマンスを阻害することがあるのだ。

 調査によると、雇用の安定に対する不安、解雇された同僚に対する悲しみ、過労は、イノベーションが生まれにくい要因になる。従業員は仕事を続けるために生産性の向上に注力するため、品質が低下する可能性がある。スタッフの退職により、人材の管理が難しくなる。企業イメージの低下により、質の高い新入社員の獲得が困難になる可能性もある。

 こうしたさまざまな影響は、レイオフ後の業績不振を説明するものだが、一見レイオフとは関係ないように見える企業全体の活動や機能に伝播するため、見逃されやすくもある。リストラや人員削減の理由には、企業分割やM&A(企業の合併・買収)による所有者の変更、効率性の向上、市況の悪化や財務上の課題、地理的・市場的変化など、多くの重要な理由がある。

 しかし、業績不振となれば、このような結論に至らざるをえない。すなわち、レイオフに限らず人員の見直しは、よりスマートな優れた方法で行えるはずである。

人員整理をスマートに行う方法

 最近、IT企業で相次いでいるレイオフを受け、ある経済史家はこう述べている。「今回の人員削減は、最先端というにはほど遠く、長年不評を買い続けてきた企業戦略が復活したことを意味する。歴史的に見て、この傾向が続けば、IT企業のリーダーたちは、会社に深刻な打撃を与えるだろう」

 最近よく、急激に規模を拡大している新興企業のCEOから、この変化する状況の中で、レイオフを行いながら信頼を維持するにはどうしたらよいかと、アドバイスを求められる。以下で、筆者が伝えた戦略を一部共有しよう。