従業員のソフトランディングを可能にする

 人員削減における企業行動で、従業員から最も公正だと考えられているのは、従業員に選択肢を提示することだ。たとえば、レイオフ前の退職金を伴う自主退職の選択や、再雇用に向けた複数のキャリアパスの支援などだ。エデルマンの報告書「2022 トラスト イン ザ ワークプレイス」のために行われた未発表の調査は、レイオフを発表する立場になったら、従業員がソフトランディングできるように、これまで以上に創造性を発揮し、これまでよりも少し多くの資金を使う準備をするよう勧めている。

 ノキアは、2011年にリストラを発表した後、ノキア内での異動と社外への転職支援の両方の道を提供し、対象の従業員を1年以上(なかには2年も)在籍させた。また、しっかりとした起業計画を持った個人や小規模なチームには資金を提供して、1000人が起業したほか、学習資金を提供して新しいスキルを身につける道も開いた。

 その結果、米国、フィンランド、インドなど13カ国の従業員1万8000人のうち60%が、ノキアを退職する前に次の仕事が決まっていた。新製品からの収益については、発表前と同じ売上比率を達成した。同社のレイオフプログラムの全費用は5000万ユーロ(従業員1人当たり2800ユーロ)、リストラ費用の4%に満たなかった。

残された従業員のことを忘れない

 レイオフ後は、多くの従業員が転職していく。ある調査によると、従業員の1%が解雇された場合、自主退職率が31%上昇した。雇用市場が活発ないま、レイオフの公正性に疑問を持つ残留組の従業員には、選択肢が十分にある。組織へのコミットメントが低い従業員は、レイオフが行われた後に会社を辞める可能性が2.5倍高くなる。

 そこで、従業員が会社に留まるべき説得力のある理由を伝える必要がある。残留組やこれから働くかもしれない従業員は、3つのメッセージを聞きたがっている。「会社は、あなたの同僚を大切に扱った」「会社の将来性を高めるための信頼できる戦略がある」「会社の将来の成功のために、あなたが果たすべき明確な役割がある」。人は言葉ではなく、行動を信用する。だから、これらのメッセージの一つひとつが、これまで行ってきたこと、そしてこれからも行っていくことと一致しているかどうかが、本当の試金石となる。

公に謝罪する覚悟を持つ

 かつて企業のトップは、人員削減について公に謝罪することを控えていたが、現在は対照的に、謝罪を行う傾向にある。

 謝罪の仕方は、重要である。会社が謝罪する際、失われた信頼を回復するために必要な3つの要素を、研究者たちが明らかにしている。(1)損害を与えていることを認め、それについて謝罪すること。(2)なぜそのような行動を取ったのかを説明する。(3)損害を与えた相手を純粋に助けるような救済の申し出をする。

 ストライプのCEO、パトリック・コリソンが従業員に宛てた、14%の人員削減を伝えるメールでは、簡潔な方法で効果的に謝罪が述べられている。コリソンの口調からは、過ちを認める真摯な姿勢が伝わる。「このような措置を取ることになり、大変申し訳なく思っています。全責任は、ジョンと私にあります。(中略)いま、私たちがいるこの世界においては、過剰な人材を採用してしまいました」

 リーダーがこのように公式な謝罪を行えば、冷笑や反感を買うことは免れない。いまやSNSやオンラインニュースのアーカイブのおかげで、誰でも簡単にCEOのメッセージの矛盾を見つけることができるからだ。

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 今日のような状況下で、ワークフォースマネジメントを成功させるには、結局のところ、「信頼」に照らして自分の行動を判断することが必要になる。解雇する従業員、会社に残す従業員、そしてこれから働くかもしれない従業員という、将来の成功を左右する3者との信頼関係を維持できれば、会社はレイオフの嵐をもっとうまく切り抜けられるだろう。 

 いまこそ、他社より優れた能力を発揮する絶好の機会だ。ハネウェルやノキアの例が示すように、信頼を意思決定の中心に据えることで、誰も予想しなかった成功につながることがある。また、信頼を中心に据えると、リーダーに注意を促すことになる。「自分の取る行動は、これまで以上に目に見える結果につながる。つまり、それによって信頼に足る人物かどうかを判断されるのだ」と。


"What Companies Still Get Wrong About Layoffs," HBR.org, December 08, 2022.