現職が指名した後継者が正しい選択だと思い込む
明確なビジョンを持ったCEOとの理想的なコンビとなるのは、そのビジョンを実行に移せる、信頼できる執行者だ。ただし、この信頼に足る補佐役は、自分にビジョンがあるわけでもなく、戦略的な力も弱い。それに社内の賛同者を鼓舞することや、社外のステークホルダーに影響を与える能力も乏しいかもしれない。このような人物がCEOに昇格しても失敗するものだ。
一方で、より力のある後継者候補は、会社を去ることも多い。優れた決断力が現職のCEOを苛立たせたり、素晴らしい結果を出して他社に引き抜かれたりするからだ。
結果として、現職が選んだ後継者は(最も優れているというより)最後まで会社に残っただけの人物かもしれない。スタンフォード大学のデヴィッド・ラッカー教授が、現職に選ばれた後継者が率いる大企業を調査したところ、その大半はパフォーマンスがS&P500指数を下回っていた。(ジャック・ウェルチの後継者として)ジェフリー・イメルトがCEOに就任したGEや、ビル・ゲイツの後任にスティーブ・バルマーが就いたマイクロソフトもそうだった(アップルを引き継いだティム・クックは例外だ)。筆者たちの調査によると、「有力候補の後継者」は53%の確率で間違った選択だった。
一時代を築いたCEOに長くしがみつく
一時代を築いたCEOは、代替わり後も取締役会長や取締役として留まることが多く、後任のCEOの成功に影を落とす。長く務めたCEOの48%近くが取締役会長に留まるか、引き継ぎに際して取締役会長に就くのに対し、短命のCEOでは28%だった。
北京大学とライス大学の研究者によると、退任したCEOが取締役会長として残る場合、後任のCEOが早期に解任される可能性は2.42倍、高くなる。『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は次のように述べている。「前大統領が大統領執務室を去った後もホワイトハウスに住み続けていたら、誰もがおかしいと感じるでしょう」
危機感が希薄である
CEOの承継で手痛い失敗を経験したことがなく、成功している企業の取締役会は、危機感に欠けていることが多い。このような取締役会は、後継者について議論することはあっても、承継の成功に必要な厳密さや客観性を欠いている。
ある大手事業会社の筆頭取締役は5年前に、現職のCEOが選んだ後継者に大いに満足していると語っていた。「私たちはその後継者を17年前から知っています。申し分のない体制にとても安心しているのです。私たちの代替わりはいつもうまくいっています。CEOの交代は初めてではありませんから」
残念ながら、この2年後に「それ以上の人物がいないと目されていた有力な後継者」が著しく期待外れな業績のため交代することになり、同社の承継は振り出しに戻った。