偶然の積み重ねで、海外へ
入山:内田先生は、海外の大学に行かれていた時期はあるのですか。
内田:アメージャン先生経由で、アリゾナ州立大学のグレン・ヘトカー先生を紹介してもらい、博士2年目に1年間行きました。
入山:アリゾナ州立大学は、エイミー・ヒルマンなどガバナンス研究で有名な学者が多いですよね。内田先生がご専門のガバナンスの研究に取り組むには、よい環境ですね。
内田先生がやりたい研究とグレン・ヘトカー先生の研究が近しいことがわかり、アメージャン先生に紹介してもらったんですか。
内田:それほど細かく考えていたわけではなくて(笑)。当時は研究テーマがいまほど明確に決まっていたわけではなかったので。博士2年から日本学術振興会の特別研究員に採用されて、研究奨励金を頂けることになって。その話が決まったことをアメージャン先生に話したら、お金があるなら、どこか海外に行ってきたらと言われたんです。
最初は、どこがいいかなとさまざまな大学を見ていたんですが、徐々に行けるエリアというのが決まってきたんです。
入山:というと?
内田:奨励金の範囲で探すと、要は都会すぎると家賃が払えないんです。
入山:なるほど、アリゾナ州立大学は郊外ですもんね。
内田:そうです。くわえて、アメージャン先生からアリゾナ州立大学は研究志向が強く、マネジメント領域では米国屈指の大学であることもお聞きしていたので。
入山:ちなみに、内田先生は、英語はもともと話せたんですか。
内田:そんなことはまったくないです。英語はできないまま行って。できないなりに頑張って……という感じですね。
入山:内田先生の前に、この連載にご登場いただいた松本陽一先生もそうですが、結果を出されている若手の皆さんって、英語がそれほど話せなくても、海外に一度行ってやってみる、というのを実行されていますよね。
お話を伺う限り、内田先生の強い意思というよりは、アメージャン先生に「行ってみれば?」と提案されたことが大きかったんでしょうか。
内田:そうですね。チャンスがあれば1年くらい行ってみたいな程度には思っていたんです。けれど、奨励金が頂けなければお金もないですし、自分一人では、受け入れてくれる先生を探すのもなかなか難しい。アメージャン先生に言われなかったら、実現しなかったと思います。
奨励金もあり、アメージャン先生に紹介してもらえる。そのような状況はなかなかないので、せっかくの機会に行ってみようと。この大学のこの先生の下で、どうしてもこの研究がしたいというような明確なイメージは、正直なかったですね。
入山:アリゾナ州立大学に行かれて、いきなりグレン・ヘトカーと何か一緒に研究をするという話ではなかったと思うのですが、最初はどのような感じだったのですか。
内田:いえ、実は行ってからすぐ、一緒に研究を始めることになったんです。
入山:それほど早い段階からですか!?
内田:せっかく行くなら、一緒にできることを何かしたいと思い、行くことが決まってから準備をしてデータをつくって持って行ったんです。実際に現地にいた1年間は、一緒に研究をしながら、研究の進め方、論文の書き方などを他の博士課程の学生と同じように学ばさせてもらいました。
論文に仕上げて、AOM(米国経営学会)で発表した後に、トップ学術誌にいくつか出したんですが、うまくいかず。そのうちにプロジェクトも途中でストップしてしまって……。
入山:あるある、ですね。
内田:結局、それをトップ学術誌に載せるまでは、私の力不足で到達できませんでしたね。
世界標準の経営理論の読みどころ
入山:最後に、内田先生が『世界標準の経営理論』を読まれていましたら、ポジティブなことでも、ネガティブなことでも何でもいいので、感想を教えて頂けないでしょうか。
内田:実は、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューでの連載時から、大変勉強させていただきました。この本を読めば、経営学の各ディシプリンの理論の全体像が見えるというのがすごいですよね。
前半の経済学ディシプリンのところを読むと、経営学で使われているさまざまな経済学的な考え方のつながりを理解できます。完全競争の条件から出発し、それを崩していく流れで説明がなされているので、どのような経緯で新しい理論が生まれてきたのかが初学者にもわかるようになっています。
一方、社会学ディシプリンに関しては、私自身、このディシプリンでは理路整然と理論が蓄積されてきたイメージを持っていませんでした。経済学ディシプリンの理論に比べると、社会学では独立した大きな理論があって、それが複数存在します。それぞれが、重なる部分はあるのですが、歴史を遡っても、それぞれの理論は別個に確立されていて、関連して発展してきたわけではないと思います。この本を読んで、その認識が正しそうだなとあらためて確認できました。
入山:『世界標準の経営理論』で理論を体系的にとらえることができ、内田先生の肌感覚とも合っていたんですね。
内田:はい。また、第1部から4部を受けての第5部「ビジネス現象と理論のマトックス」は、素晴らしい流れだなと思いました。前半で約30の経営理論を説明した後に、戦略やイノベーション、ガバナンスといった現象を理論と紐づけて整理されている。
1つの現象を説明する理論は、1つに限らず、複数あることが多いです。実際、第5部では、さまざまな現象が複数の理論で説明されていますよね。理論だけ、あるいは現象だけでなく、それらをうまく結びつけて整理されているので、私自身の頭の整理にも、学生に教える時にも、非常に説明しやすいですね。
入山:ありがとうございます!
(終了)
【著作紹介】
世界の経営学では、複雑なビジネス・経営・組織のメカニズムを解き明かすために、「経営理論」が発展してきた。
その膨大な検証の蓄積から、「ビジネスの真理に肉薄している可能性が高い」として生き残ってきた「標準理論」とでも言うべきものが、約30ある。まさに世界の最高レベルの経営学者の、英知の結集である。これは、その標準理論を解放し、可能なかぎり網羅・体系的に、そして圧倒的なわかりやすさでまとめた史上初の書籍である。
本書は、大学生・(社会人)大学院生などには、初めて完全に体系化された「経営理論の教科書」となり、研究者には自身の専門以外の知見を得る「ガイドブック」となり、そしてビジネスパーソンには、ご自身の思考を深め、解放させる「軸」となるだろう。正解のない時代にこそ必要な「思考の軸」を、本書で得てほしい。
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