市場シェア拡大に重点を置く戦略は時代遅れか
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サマリー:かつて市場シェアは、大きいほど収益性が高くなると考えられ、経営幹部にとって重要なKPI(重要業績評価指標)となってきた。この関係性は、企業のデジタル化が進む今日においても、成り立っているのだろうか。それ... もっと見るとも市場シェア拡大に重点を置く戦略はもはや時代遅れなのか。本稿では、それを明らかにするために、効率化、市場支配力、品質支配力という3つの構成要素について、詳しく見ていく。 閉じる

DXが進む現在も、市場シェアと収益性に相関はあるか

 市場シェアは、常に経営幹部にとって最も重要なKPI(重要業績評価指標)の一つに位置づけられている。それにはもっともな理由がある。市場シェアが大きいほど、収益性が高くなると長い間考えられてきたからだ。しかし、この関係性は、企業のデジタル化が進む今日においても、成り立っているのだろうか。それとも、市場シェアの拡大に重点を置く戦略は、もはや時代遅れなのだろうか。

 この数十年の間に、企業や社会のデジタル・トランスフォーメーション(DX)によって、競争環境が様変わりしたことは間違いない。まったく新しい産業(半導体やソフトウェアエンジニアリングなど)が誕生し、新しい生産形態(オートメーションなど)や新しいビジネスモデルや収益モデル(デジタルプラットフォームやSaaS〈ソフトウェア・アズ・ア・サービス〉)も登場した。そして、1990年代のPCの普及、2000年代のインターネットの普及に続き、AI拡張現実(AR)がさらなる破壊的変革を引き起こしている。

 こうした動きが市場シェアと収益性の関係にどのような影響を与えているかを知るには、市場シェアの拡大がどのように収益性につながるのかを理解する必要がある。

 第1に、市場シェアの拡大は通常、規模の経済、学習曲線効果、参入障壁の拡大などによる「効率化」に関連している。第2に、市場シェアの拡大は、「市場支配力(マーケットパワー)」(需給調整による価格決定力)の増大を意味し、大手企業はサプライヤーや顧客に対して有利な交渉が可能になる。第3に、市場シェアの高い企業が提供する製品やサービスは、「品質イメージ」が高い傾向にある。

 一見すると、企業におけるデジタルケイパビリティの向上は、市場データの分析精度の向上、カスタマイズされたAIモデルのトレーニング、より正確にはマーケティングキャンペーンやR&Dのテーマ設定を可能にすることで、効率化を進めるのに役立つ。通常、そのような大量のデータの収集や分析は、大きな市場シェアを持つ大企業のみが可能であることを考えれば、結論として、大企業ほどDXの普及によって市場シェアと収益性の結び付きが強くなる、と考えるだろう。この効率化が、ひいては市場支配力と品質イメージを引き上げるだろう、と。

 しかし、それがすべてではない。以下では、3つの構成要素について、さらに詳しく見てみよう。

効率化

  CRM(顧客関係管理) システムを展開するセールスフォースのようなSaaS企業を通じて、自動化やAIが広く実装可能になったため、中小企業も高度なソリューションの恩恵を受けられるようになった。また、アマゾン・ドットコム、ショッピファイ、インスタグラムなどの企業によって、DXを実践するあらゆる規模の企業が、世界中のオーディエンスを対象に広告を打ち、商品を販売し、出荷するグローバルプレーヤーになれる。同様に、デジタルソリューションはアウトソーシングやオフショアリングも促進するため、市場シェアの低い企業でも、デジタル化することによって、これまで大手の競合にしかできなかった効率化が可能になった。