顧客獲得と維持の投資配分

 優れたマーケティングとは顧客との友好な対話であり、潜在顧客を自社との良好な関係に徐々に引き入れるためのプロセスである、と考えられるようになってきた。そして対話というものが、適当な相手を見つけて会話を始め、その流れを維持するという2つのステップから成るように、新しいマーケティングの役割も、新規顧客の獲得とその維持に分かれる。

 したがって、事業を成長させることとは、顧客を獲得し、維持し続けることによって、顧客基盤の価値(顧客との対話の合計)を最大化することだと定義できる。マーケティング予算の策定においては、新規顧客獲得への投資と既存顧客維持への投資をいかにバランスさせるかが課題となる。

 一般的には、顧客維持の重要性は市場の成熟度によって変わる。では、新規顧客獲得と既存顧客維持の最適なバランスをどのように決定すればよいのだろうか。我々はそのための基準として、「カスタマー・エクイティ」を提案する。

 カスタマー・エクイティとは、全顧客がその生涯においてもたらす利益のNPV(正味現在価値)である。このカスタマー・エクイティが最大になる時、新規顧客獲得と既存顧客維持のバランスが最適となる。

 カスタマー・エクイティを計算するためには、まず、顧客がユーザーである期間に得られるであろう売上げから、固定費を差し引いて期待利益を算出する。そしてその期待利益を、マーケティング投資に対する期待収益率で割り戻して、NPVを計算する。これを一人ひとりの顧客に対して行い、合算すればよい。

 カスタマー・エクイティの評価は、概念的には、収益性のある不動産(賃貸アパートなど)のポートフォリオの価値評価と似ている。どちらも評価を大きく左右するのは、新規顧客獲得の費用と、既存顧客維持によって得られる将来利益の2つである。もちろん、顧客との関係維持に要するコストやブランド戦略など、他のさまざまな要因もカスタマー・エクイティに大きく影響を与える。